―特定市場への集中は、きょうの天国あすの地獄と心得よう―
◆集中は、天国と地獄の背中合わせ

 “特定市場への集中”とは何か。
名古屋の千種区にメーカーがあった。自動車の部品加工会社だった。得意先は、トヨタ、ホンダ、富士重工(スバル)など。会社の売上高の98コンマ数%が、自動車メーカー向け。要するにほぼ100%の売上が、自動車関連だった。徹底した自動車関連への集中だった。
 ある日社長に、あるコンサルタントが「自動車一辺倒は危険です」と、警告した。しかし、社長の返事はこうだった。「先生は心配性ですよ。うちはいま、受注残が6ヵ月先まであるんですよ・・」
しかし、その先生の心配は的中し、会社は破綻した。
 そして、こんな会社もある。仕事をくれる得意先の業種は、ある程度、幅が広いから懸念なく見えるが、全部の得意先が、輸出依存である。
そこでこの会社の社長にも、「輸出業にシフトして95%の集中過剰。危ないですね・・」と言った。今度は心配性とは言われなかったが、軽くかわされ、そのまま無視された。
そしてこの会社も、名古屋の破綻会社同様に、仕事急減で破綻寸前である。
 特定市場への集中は、春風が吹くときは、徹底して気分がいい。不況なんてクソ食らえ、という感じで、人の言葉なんか無視。こんな環境下では、何もかもプラスとなる。
その上、“春の向こうには冬が待つ”という絶対原理も耳に入らない。
◆経営者の真価は、リスク管理と対策でわかる

 経済の難しい理屈は知らなくても、“循環の法則”とか、“エッグサイクル”を知っていれば、いずれ厳冬は訪れる、ということはわかるはず。では、“エッグサイクル”について。
卵の生産を上回る需要がある。価格も上昇する。すると生産者参入が相次ぐ。やがて生産過剰になり市場価格も下がる。不況で不採算業者が撤退する。
以上は、卵を例にとった経済サイクルだ。
 経済は、必ず循環するものである。ずっと好況、ずっと不況はないのである。
このような理解があれば、イザというときのため、リスク分散を考えるもの。
リスク分散の代表が、“特定市場への集中”の魔力に引き込まれないことだ。
 米問屋にしても、すし屋や米飯業者に卸したほうが、効率がよく儲かるからと、業者卸しに集中したところは、多くが破綻した。賢い業者は、みずから、おにぎり屋を直営したりして、リスク分散をしている。
とはいえ、人間は神様ではない。春風に長く吹かれると、まだまだ・・と思ってしまう。
 経営者の真価は、リスク管理と対策で問われる、という意味がよくわかる。