◆時流に背を見せる問屋商法
 過去の習慣を、そのまま引き継いでいる。“惰性の経営”は、会社の成長を阻害し、会社の体力を弱め、やがて会社を破壊する方向に追い込む。
 熊本の食材問屋で、ある社員が社長を乗せた車で鹿児島営業所に向けて出発した。何年も鹿児島を訪ねずに、「エアコンは贅沢だ」といって、エアコンなしの車両営業を続けさせている営業の現場の実態を、社長に見せるためだった。
 鹿児島に着くと、これから商品を配送するという営業車に、社長と一緒に同乗し出かけることにした。鹿児島市内は、「きょうは桜島の噴煙はない」と思われる日でも、ちょっとした風向きの変化で火山灰が空に舞うことは多い。
 この日も、そのような日だったが、その社員は頃合いを見て車を停めさせた。
 「社長、後ろに積んだ商品を見てみましょう」
こういって下車するや、ダンボールに入った商品を見た。ダンボールの表面を社長の手で撫でてもらった。いやでもザラザラだ。火山灰の被膜である。
 指でなぞると、薄い灰の被膜に指先の幅で筋が通った。
 これが真夏だと・・・。社長にも営業車にエアコンが必要な意味がわかったようだ。
 鹿児島営業所の社員たちは喜んだ。実直というべきかお客様のために、エアコン装備を会社に要求も、拒否されていた社員たちは本当に喜んだ。
 「これで、得意先に着く手前で車を停め、火山灰を払い落とす手間が省けました」と。

◆惰性の経営は利益を食う
 上に紹介した例は、極端かも知れないが、“惰性の経営”の象徴というべきだろう。
 さてAB両社は、ファッション卸という同業でありながら、成長会社と衰退会社に、極端に分かれてしまった。PC(パソコン)かぶれも問題だが、PC知らずはもっと問題だ。
 A社は定番商品の多くは、ネット受注である。受注したPCは他のPCに連動し自動的に、経理部門では受注として記録され、締切り日には請求書として印刷される。商品管理部のPCは、出庫伝票として印刷され処理される。営業部門のPCは、納品明細書や納品書としてアウトプットされ営業マンが商品と一緒に持って出かける。いまや当り前の処理だ。
 ところが同業のB社の受注体制はいまでも、電話とFAXが受注の柱である。
 社長自身は、携帯の用途は電話オンリー。ネットやメールは、自分の認知範囲をはるかに超えている。「IT時代だ、ネットを生かせ」と助言すると、いまこそ自社の“準対面商法”に価値があるといって耳を貸さない。
 そういう考え方だから、部下にネットに詳しい者がいても生かし切れない。
 その一方でA社がネット活用のお陰で、コスト(特に人件費)の大幅削減に成功している事実には思いが及ばない。当然両社の利益率には大差が生じている。
 このB社も、熊本の会社に劣らず、“惰性の経営”の経営を続けている。
 思わず、「脱皮できない蛇は死ぬ」という箴言(しんげん)を連想してしまう。