~精神疾患(うつ病)の基礎知識~

 今回は代表的な精神疾患であるうつ病に関する基礎知識を中心にお話します。ただ私は医師やカウンセラーではありませんので、労務管理をしてゆく上で、管理者が知っておいてもらいたい基礎知識についてお話します。
 
1.ストレスとは

 うつ病に罹患するには、その前提として何らかの強い、又は継続的なストレスを受けています。このストレスとは「ストレス要因」と「ストレス反応」に分けることができます。例えて言うなら、やわらかいテニスボールをイメージしてください。テニスボールを「心」に置き換えます。ボールを指で強く押すと、ググッと凹みます。これがストレスを受けている状態で、この場合、指がストレスを引き起こしている「ストレス要因」であり、凹んだ状態が「ストレス反応」を引き起こしているということです。そして通常、指(ストレス要因)を離すとボール(心)に、凹んだ状態(ストレス反応)はなくなります。しかしうつ病の人は指を離しているのに、ボールが元へ戻らないような状態をイメージすると分りやすいでしょう。

 通常我々が日常生活を送る上で、ストレスを感じないということはありません。仕事上、家庭生活上、個人的なことなど常にストレスに晒されます。ストレスのない社会など有り得ません。誰でもストレスは受けているのです。
 ここでは仕事上のストレスを中心に考えます。仕事上、何らかのストレス要因が発生します。しかしそれだけでは直ちに精神疾患になるわけではなく、そこに仕事以外の要因や個人要因が加わって症状が出るのですが、ここで大事なのは職場でストレスを緩和する「緩衝要因」を管理者が如何に与えられるかが重要なのです。これを図示すると以下のようになります。



              個人要因
                ↓
仕事上のストレス要因――――――――――――――――――――――――――→急性ストレス反応―――→疾病
                ↑         ↑
              仕事以外の要因    緩衝要因 ⇔ これが急性ストレス反応を防ぐ
             

 この緩衝要因が労務管理の肝です。これに関しては次回以降で考えてゆきます。


2.うつ病の基礎知識

1)うつ病とは心の風邪?

 何らかの因子により脳内のセロトニンなどの神経伝達物質の働きに異常が生じて出現する病気と言われています。誰でもかかり易いことの比喩で、よく心の風邪と言われたりもします。

2)うつ状態とうつ病

 よく医師の診断書を取ると、「うつ状態(抑うつ状態)」と記載されていることがあります。むしろはっきりうつとを断定して記載されている方が少ないくらいです。ここでよく勘違いが起こるのですが、うつ状態=うつ病 ではありません。うつ状態とは確定診断が下るまでの仮の病名であったり、本来の病名を隠すため曖昧な状態病名で記載されることが多く、うつ病なら必ずうつ状態になりますが、うつ状態=うつ病ではないのです。この関係を図示すると以下のようになります。


うつ状態 > うつ病、統合失調症、人格障害、更年期障害、糖尿病、脳梗塞etc


 つまり、うつ状態を引き起こす原因はうつ病だけではなく、他の精神疾患であったり、脳疾患であったりすることもあるのです。


3)うつ病の診断基準

 うつ病は、以下9個の症状のうち、①または②のどちらかを含む5つ以上の症状が2週間以上持続したと判断される場合に初めてうつ病と診断されます。

①抑うつ気分
②興味または喜びの喪失
③食欲の減退または増加
④不眠または睡眠過多
⑤強い焦りまたは身体の動きの鈍化
⑥疲れやすさまたは気力の減退
⑦自責感
⑧思考力や集中力の減退
⑨死についての反復思考

 あくまでも医学的に判断するのは医師なのですが、管理者としては、「きちんと眠れていますか?」「好きなことを楽しめていますか?」の質問に、どちらもNOなら、メンタルヘルス不調を疑ってかかる必要があります。


4)二つのうつ病

 現在、うつ病には大別して二つのうつ病があります。皆さんが一般的にイメージできるのは、以下(ア)の従来型うつ病といわれるものなのですが、最近ではそのイメージとはかけ離れた(イ)の新型うつ病というのが、増加しています。

(ア) メランコリー親和型うつ病(従来型)

働き盛りの人に多い
社会的規範(決まりごと)を重視
自分に厳しく几帳面で周りへの気遣いに長けている       
強い焦りや不安がある
自責の念が強い(自分を責める傾向)                


(イ)ディスチミア親和型うつ病(新型)

20~30代の若い方に多い
社会規範よりも自分のやり方にこだわる     
根拠のない自信を持っている
他責的(直ぐ相手や会社のせいにする)
仕事以外は活動ができる(趣味を楽しんでいることも)


 アの従来型は基本的に、休養と服薬で改善するのに対し、イの新型は人格育成が必要で、対応が容易ではありません。


5)心の健康問題を診察する医療機関

 最近は心の病気を扱う医師が増え、敷居が大分低くなりました。「精神科」と「神経科」はほぼ同じと考えてよく、「心療内科」は厳密には少し領域が違うのですが実務的には同義と考えてよいと思われます。但し、「神経内科」は対象疾患が全く違いますので、うつ病が疑われる場合は、「精神科」、「神経科」、または「心療内科」を受診してもらうことになります。


 次回はいよいようつ病と労務管理について話をすすめて行きたいと思います。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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