●前例なき特命業務をさせれば、真の人材は判然とする

 500人規模のある会社に、“人材育成”の巧みな人事担当常務がいた。この常務は、「この男は、将来上級幹部になりそうだ」と思うと、社内には前例のない仕事を特命としてさせる。
 たとえば、こんなことがあった。
 会社のトラックが、タクシーに追突した。タクシードライバーは長期入院をする羽目になり、会社は加害者になった。
 入院が6ヶ月も続いた頃、この常務は総務課長を呼び、こんな特命業務を与えた。
 「タクシーへの追突事故だが、いつまでも現状のままというわけにもいくまい。医師の許可があり退院したら、いわゆる慰謝料や損害賠償などで決着をつけなきゃなるまい。そこで当社として相手の被害者に、一体どのくらいの経済支出で決着が可能なものが、ひとつ試案をはじき出してみてくれないか」
 するとこの総務課長は、担当業務を犠牲にすることなく、精力的に研究を始めた。書店からは、交通事故の後始末としての示談や裁判の判例に関する書籍を購入し、図書館にもよく足を運んだ。
 やがて2ヵ月もすると総務課長は、A4大で約50枚にも及ぶ報告書を提出した。一般社員はだれも知らない。
 常務はレポートを一気呵成に読み上げた。内容に驚嘆した。
 法律事務所並みの論理的な内容だ。よくここまで調べたものだ。
 約半年後に会社は被害者との示談が成立し、必要な経済支出をした。もちろん弁護士が間に立った。
なんとその金額は、ほぼ総務課長が試算した金額に限りなく近い近似値で決着した。この課長はやがて、子会社の社長に抜擢されたが、やがて親会社を超える業績をあげるようになり本社に戻った。
 いまは本社の専務だが、数年後の社長として疑う者はいない。
 常務は会社を去っていたが、見事な置き土産を残してきてくれた。

●伸びる人材は、企画力と創造力&研究力を備える

 輝く能力を秘めている者は、前人未到の分野を切り拓く意思と能力を秘めているものだ。
 部課長でも会議の場で、よくこんなタワケを言う者がいる。
1、   時間が足りなくて、できなかった。
2、 前例になるものが何もなく、できなかった。
3、 有効な資料の所在がわからず、時間に間に合わなかった。
4、 本業が忙しく手が回らず、できなかった。
5、 自分一人だけの作業だったから、できなかった。
 特命事項を与えると、よくこんな言い訳をする者がいる。この種の言い訳こそ、私は上級幹部には向いていません、と自ら白状するようなものである。
 御社でも、将来もっと伸びる人材か、それとも当座の頭数かを見立てをしたいときは、社内に前例のない仕事を与えるのがいい。
 「そんな仕事はしたことがありません」と、相手が難色を示したらその場で、凡材中の凡材と思うがいい。
 人事異動でも人材か凡材は、簡単に見分けがつく。
 凡材は、過去の経験の延長でできる仕事を喜ぶ。
 真の人材は、未経験の新分野への異動に夢を抱いて興奮するものである。凡材中の凡材は経験を喜び、人材は未経験の新天地に、挑戦する喜びに興奮するものだ。