◆他人の目で自店を見れば、得るものは大きい
 チーク材専門の家具店があった。来客数の少ない(赤字経営)店である。
 南洋材のチーク材というのは、国産材のケヤキ材やナラ材と違って、木目の美しさは楽しめない。その上色が黒っぽい。堅い木ではあるが、椅子でもテーブルでも、全体が黒っぽいのだ。
 だから、店内に商品を増やせば増やすほど、店内の色彩印象は、暗くなるばかり。
 特別な照明で、売り場演出でもしない限り、多くの来客は、「この店、なんとなく薄暗い店・・」と感じるから、なかなか客が財布のヒモをゆるめない。
 しかし当事者の社長さんは、この自覚がまったくない。自分を客観視できていないのだ。
 もう一ついえば、よく電話に出る女性店員も問題だ。
 その声は、じつに陰鬱なのだ。チーク材に似て声まで暗い。暗い声は、客を遠くに押しやっても、財布のヒモをゆるめる客にするのは、至難のワザ。
 この社長さんはなぜ、この程度の問題にも気付かないのか。「相手が何を自分に求めているか」という感覚は大事にしなければいけない。「同業他店を見て、いいことは取り込もう」と思うことは必要である。

◆商売繁盛の、合い言葉は何か
 すでに海外にまで出店した業種に、1000円でカットできる理髪店がある。
 この業種を考案した開発者は、「各地の多くの理髪店に、客として出かけました」という。
 出かけた店では、徹底して客を観察したそうだ。待たされてイライラしている客を多く見て、「待たせない店を作ろう」と思ったという。電気ヒゲ剃り機の性能が高くなり、「床屋でヒゲ剃りを省いても、価格が安くなれば客は歓迎する」とも、思ったという。
 こうやって、“1000円カット”は完全に顧客ニーズをつかんだ。
 ところで全国の床屋さんで、同業の店に出かけて髪をカットした人がいるだろうか。
 その上で、「このやり方は、なかなかいい。自分の店にも取り込もう」と思った人がいるだろうか。あるいは、「気がきかない床屋だな、と思ったが、よく考えると自分の店でも同じことをやっていた。うちでも考え直さないといけない」と思った人がいるだろうか。
 商売をやっていて、いちばんツマラナイ感覚は、“インサイド感覚”である。
 自分は外に出ないで、中から一方的に外を見るだけの、一方通行感覚だ。
 先に紹介した家具店でも、通行人の感覚で外から店を見れば「この店は暗い!」と気付いて当たり前だが、物を見る感覚が“インサイド感覚”だから、自分の店の売上障害になっている問題点も見えないでいる。「他人の目で自社を見る」は、商売繁盛の合い言葉なのだ。