◆冬の来ない四季はない
 マクドナルド(MAC)の、最新の連結決算によると、過去最高益を更新ということだ。しかも2期連続という。かつて赤字に転落して苦しんだMACが、ウソのようである。
 ファミレスにしても、その他の外食フード業界も、消費不況に加えてデフレ圧力が加わり、厳しい環境にありながら、過去最高益を更新というニュースは、朗報である。
 ところがMACは、時を同じくして、“全国400店舗以上を閉鎖する”という。
 「この調子のいいときに、一体なぜ店舗閉鎖するの?」
 一般的には、こう思う人が多いのではなかろうか。
 ところでよく使われる表現に、“建設的破壊”という言葉がある。MACの店舗閉鎖は、まさにこれに該当するようだ。MACによれば、“収益力の改善”に着手するという。
 しかしここでは別の視点から、この問題を見てみようと思う。
 一般には、“過去最高益を更新”という結果を得れば、「いまのやり方がいいから、いい結果が出たんだ。だから現状を維持、現状を続行だ・・」という方向に、進むのではなかろうか。
 名古屋市内に、300人規模の本社工場を置く会社にS社があった。受注残が3カ月間もある。毎日残業を続けても、3カ月先までの受注で会社は、残業、残業また残業という状態。
 そうしたある日、ある経営コンサルタントが毎日が仕事で忙しいという経営者と、ゆっくり語り合う機会が訪れた。
 そこで、吉川英治の言葉を引用し、こんなことを話した。
 「“朝の来ない夜はない”と、作家の吉川英治は言ったが、冬の来ない四季はない。当社は、春爛漫の季節だが、いずれ冬は来る。当社の受注比率は、自動車業界が98%。その他が2%。いまから手を打って、この98%という異常な構成比を是正する必要がある・・」と。

◆最悪の状況を想定し最善の手を打つ
 ところが社長と専務(兄弟)は、笑いながら言った。
 「先生は心配のし過ぎですよ。いずれは冬(厳しい経営環境)が来るかも知れませんが、心配の早取りですよ・・」
 こういって、まるで聞く耳はない。
 「すぐに結果が出せるものじゃないからこそ、業績がいいときに着手する必要があります。自動車業界ベッタリは危険・・」
 こう語っても、受注残3カ月という実績の前では、社長兄弟は聞く耳は持たなかったそうだ。
 しかしこのS社は、現在は経営破綻で消滅している。
 ある自動車メーカーからの要請で、カナダに工場を作ったのはいいが、品質管理レベルが崩れ、品質低下が障碍になり、これがきっかけでずるずると受注が減りはじめ、そのまま冬どころか大暴風雨の状況に転落し、経営は破綻した。
 経営の安定期に、最悪の状況を想定し最善の手を打つ。わかっちゃいるけど、イザとなると、MACのような発想はなかなか出ない。MAC戦略は、最高の経営教本の一つと思える。