●カメレオンになれない経営の悲劇
 カメレオンという爬虫類の生き物は、両目を使い、左右別々にものを見ることができる。
 視界が広い上にマルチ的な視界を持つ。通常は全身が緑灰色だが、わが身を囲む環境の色が変われば、その環境に溶け込むように体色を変え身を守る。素早い環境適応力を発揮する。
 しっぽは長く、樹の枝ではこのしっぽを枝に巻き付け、態勢の安定を図る。
さて、カメレオン型の経営トップとは、こんなタイプの人である。
1、経営環境の変化を、いち早く察知する経済感覚を持つ人。過去の成功に固執しない。
2、意思は強いが頑固ではなく、性格は柔軟かつ行動的な人。椅子に座る時間が短い。
3、現在経営中の業種業態に埋没せず、別な業界事情にも通じ、プラス情報を取り込む。
 ではここで、カメレオン型の経営者とは、まるで逆の経営者の例を考えてみよう。ただこの経営者は、甘く豊かに育てられ、引き継いだ経営資産は大きく、先代の急逝で社長になった。
 大学で経営学を専攻したこの息子は、哀れにも、学歴イコール経営実力と錯覚していた。
 何が哀れかというと、経営実学が見当違いもはなはだしいからである。
 この机上論の自己盲信社長は、後継ぎと呼ばれるのを嫌い、自身の実績を実現することを急いだが、何をやってもことごとく失敗した。
 東京の原宿に、「これからはヘルシーフーズの時代だ!」といって、ベジタブルレストランを出して大赤字を出した。若者の街にベジタブル、まるで“水と油”であるのがわからない。
かと思うと彼は、スーパー経営にも乗り出したが、店への出入りが一番便利な駐車場に、従業員たちが車をとめても何も言わない。顧客優先という考え方がないのだ。

●商売繁盛の秘訣は?
 上に紹介した社長は、カメレオン型とは、まるで逆のタイプの社長である。
 ところが同じスーパーでも、上り調子のある社長の場合は、カメレオン型の象徴みたいだ。
 この社長は、ときどき買物カートを押して、一人の買物客になる。
 「買物客たちの話し声は、じかに聞こえるし、店の評判も耳に入ってきます。なぜこの商品をチョイスするのかなど、いろんなナマの客の声が聞けます。敵(ここでは客)を知り己を知れ、という戦勝の基本ですよ」客の中に入り込み、顧客のホンネを掴みとる。まさにカメレオン型ではないか。
 広島のオタフク(お多福)という会社が、「お好みソース」という人気商品を売っている。
 長い間、地元広島だけの人気商品だったが、いまではナショナルブランドになった。
 この会社の創業者(故佐々木清一氏)は、街のお好み焼き屋に日参するようにして通い、店主たちが求めている“客が喜ぶ味”を教えてもらい、長い長い時間をかけて、現在の代表的な商品である『お好みソース』を作り上げたのである。
 カメレオン型になると、自分の会社の実像も見えるようになるから、舵取りを誤らない。