●ひとことの声かけを準備したT社長
 日本を代表する住宅会社の創業者たるT社長には、こんなエピソードが残っている。
 新入社員の配置も済んだある日、東京本社から仙台支店に出張することになった。
 仙台支店に到着するや社長は休憩もせず支店内を見て回った。新人二人の営業マンもいる。
 その二人の側に近付くや社長は、この二人に声をかけた。
 「おお、きみは大阪の堺出身の山田くんだったな、どうだ少しは仕事にも馴れたか・・」
 自分の名前はもちろん出身地まで覚えていてくれた社長に感動を覚えた山田君を横目に見ながら今度は、もう一人の新人にも声をかけた。
 「きみは確か熊本出身だったな。須賀沢くんと言ったかな・・・」
 何日かしてこの新人二人は、終業後語り合った。
 「何百名という入社式で社長は、高い檀上から我々を見ていただけなのに、我々の名前まで覚えているというのは凄いね。これじゃハッスルするしかないんじゃないか・・」
 この社長は、ほんの一言の声掛けで、新人二人の心に火を点けたのだった。そして社長は全国各地に出かけるたびに同様の声掛けを繰り返した。
 このT社長はセキスイハウス初代の社長、田鍋健その人である。また、田鍋社長は営業マンの研修現場を訪ねては<樹木を切ると木材、その木材を加工すると材料。材料を組み立てると建材となり、建てた物を建築物という。みんなは我が社の優秀な建材や人材です>といってみんなを激励されたそうである。

●ひとことの言葉に気をつけよう
 ここで田鍋社長の舞台裏を紹介しよう。田鍋社長は本社を出る前に、人事部門に調べさせ、新人の人事記録を鞄に忍ばせていたのである。そして出張の途中で暗記していたのである。
 こういう周到な準備を思うと、人を育てる“努力と知恵”をつくづく実感する。
 最後に人育ての名言を紹介します。人育てに定型法はない。自分流を創るご参考にしてください。

☆平凡な教師は言って聞かせ、良い教師は説明する。優秀な教師はやって見せ、最高の教師は生徒の心に火を点ける。(ウィリアム・ウォード)
☆人間は五角形でも八角でもない。もっと入り組んだ複雑多面体である。人の一面や二面を見て人物を即断してはいけない。(二見道夫)
☆相手の認識を変えるには、相手の自分への認識を変えることだ。(心理学者 マズロー)