東日本大震災におきまして、被災された多くの方々に対しまして、謹んでお見舞い申し上げます。
被災地の1日も早い復興を、心よりお祈り申し上げます。


●未払い残業代請求問題の対策を考える  その3
~弁護士・司法書士による、消費者金融過払金返還請求の次に来る残業代請求バブルに備える~


今回は本年2月配信のvol.106に続き、第3回目で、今までの労働時間の管理の仕方と違い、賃金の支払い方を工夫することで未然に防ぐ対策を考えています。全部を履行するのは無理ですから、企業の実情にあった対策を選択していただければと思います。

~賃金支払い方法からのアプローチ~


① 固定残業代

ポイント→定額手当が時間外手当相当額であることを就業規則及び雇用契約書で明記し、その手当を給与明細に載せる。
例えば、1ヶ月平均所定労働時間160時間とすると 
  雇用契約書 月給 45万円  営業手当10万円(内5万円を固定残業代とする)
  賃金規程   営業手当はその支給額の50%を時間外手当(休日、深夜を含む)とする。

上記の例では固定残業代5万円は何時間分に当たるか?
1)(45万円+5万円)÷160時間=@3125
2)5万円÷(3125×1.25)=12.8時間  12.8時間分までは支払い済みとなる。

但しこの場合は、実際の額と固定額(上記で12.8時間分)との差額支給の問題は残る。



② 内込み残業代

基本給の中に一定時間分の時間外手当を盛り込む方法。労働者の同意(新入社員は別)と就業規則上の根拠が必要。
例えば、月給 45万円  1ヶ月平均160時間  込みにしたい残業時間数を45時間/月 とすると
「記載例」  基本給45万円(基本部分 332,948円、時間外45時間分117,052円)

上記の計算式は
1)45時間×1.25=56.25時間
2)45万円÷(160時間+56.25時間)=@2080.92
3)@2080.92×160時間=332,948
4)@2080.92×1.25×45時間=117,052円    3)+4)=45万円



③法内残業または通常の業務以外の別単価制

すべての労働時間に対して、通常の1時間あたりの単価で支払う必要はない。例えば、
「1日7時間の会社の8時間までの1時間 」や 「労働密度が非常に薄い仮眠や手待ち時間」は、最低賃金を下回らない限り、合意のもと、自由に単価(手当)設定できる。つまり残業代を計算する通常の1時間あたりの単価が1,000円(割増単価で1,250円)だったとしても、上記のような時間帯には800円で支払うことも可能ということである。



④法内残業を所定賃金の中に含める契約

例えば1日 7時間の会社の場合、8時間までの1時間分について予め最初から月額の中に含まれている契約自体は有効である。この場合も就業規則上の根拠が必要。但し1時間当たり単価が最低賃金を割らないように注意する。例えば今まで1日7時間労働で20万円支給のところを、「基本給は就業規則第○条の1日所定労働時間7時間にかかわらず、1日8時間労働とみなして支給する」といった具合である。



⑤ 所定労働時間を超える支払契約(例 1ヶ月所定時間173時間)

理論上は所定賃金の中に所定労働時間を超える合意は有効。例えば月給30万円の対象時間を1ヶ月所定173時間分ではなく、200時間分とする合意は有効である。この場合は30万円中にあらかじめ200時間分が含まれているということであり、200-173の27時間分の労働が実際に発生すれば割増は0.25だけ付ければよく、200時間を超えた分から1.25を付加すれば良いことになる。考え方は上記②と似ており、最初から一定の超過労働をしてもらう感覚で月給を決めているところにはこのようなやり方もある。



⑥ 歩合給の比率を多くする

固定給を低く抑え、売上が低い時は最低保障給を平均賃金程度で保証して、歩合の比率を高める。出来高給部分は、1時間単価が非常に安いので時間に比例して残業代を付けても、大した額にならない。
例 基本給15万円  出来高15万円の計30万円の場合で所定173時間 時間外70時間の場合
基本給15万円に対する残業代75,867円(15万÷173×1.25×70H、 歩合15万円に対する残業代10,802円(15万÷243H×0.25×70H)で計86,669円。
(ちなみに30万円が全て固定額だとそれに対する残業代は151,734円で同じ時間でも65,065円の差額が出る)



⑦ 賞与で調整する 

要領が悪いなど内容は別として実際に残業があるのに残業代をつけない訳にはいかないので、とりあえずはつける。しかし賞与を利用して、年収ベースでは、いわゆる無駄残業分を賞与から控除できる仕組みにしておく。会社が命じる残業とどうしても必要と認めた残業を除いて、残業をすればするほど賞与が下がる仕組みを作っておく。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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