●中小企業のメンタルへルス問題  その5 ~うつ病社員の復職の流れ~

精神疾患の場合、一番悩ましいのが復職判断です。ポイントは二つ、

1)治癒が大前提であること
2)あくまでも最終的に復職判断を下すのは医師ではなく、人事権のある会社であること

これを押さえておいてください。治癒とは休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に回復することをいいます。
また主治医の診断書をどう見るかですが、病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、直ちに職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限りません。また従業員や家族の希望が含まれている場合もありえます。従って主治医は病気を治す専門家であって、就業が可能かどうかの機能性を評価する専門家ではないということです。

①復職への基本的な流れ

ア)復職願により労働者本人の職場復帰を希望する旨の意思表示の確認  
         ↓
イ)主治医による就業可能との診断書 
         ↓
ウ)更に情報を得るために主治医と面談または文書により主治医から詳細な情報提供を依頼
         ↓
エ)産業医又は会社指定医による本人との面談
         ↓
オ)企業としての就業可否の判断(復職又は休職継続或いは退職)

ウは当該労働者の企業での勤務時間や仕事内容等の詳細情報を提供し、以下のようなことを聞きます。
・抑うつ状態など抽象的ではなく、具体的な病名
・これまでの治療経過と回復状況
・今後の治療の見通し(通院頻度など)
・職務遂行能力の回復具合
・業務上必要な配慮措置やその期間など


エにおいて産業医がいない場合、他の医師への受診命令は可能かということですが、就業規則に根拠規定があれば問題なく、仮に規定がなくとも安全配慮義務の必要上、必要な受診命令は可能です。
またオの会社の判断は、個人に責任が集中しないように復職判定委員会のような合議体で決定するのが望ましいでしょう。


       
②復職後

1)まずは元の職場へ復帰が大前提です。但し明らかに過重労働職場やハラスメントが原因となっている場合は、異動も考えます。ただこの場合でも人事権は会社にある大原則を肝に銘ずべきで、必要以上に配慮しすぎないことです。


2)リハビリ(試し)勤務(復職支援)  
「休職中の社員(業務量、職責など軽減することで労働者の職場復帰を円滑に進める治療への職場協力)」として扱うのか、「復帰後の社員(使用者が本当に労務提供可能かどうかを判断するという試験的要素)」として扱うか、制度設計が必要です。

前者のケースでは一般的に模擬出勤や通勤訓練として行い、あくまでも休職中として、復職判断のために行うことが多く、指揮命令に基づく労務提供はなし、賃金・交通費なし、労災補償なし、となります。
また後者のケースでは復職後の措置として行うことが多く、出勤した時間に応じて賃金支払い、短時間(時給)勤務、軽作業への従事、残業・深夜労働の禁止、出張制限、危険業務・運転作業の制限、窓口業務の制限等をおこないます。

いずれにしても概ね3ヶ月を目安とし、それ以上の期間配慮が必要ならそもそも復帰が適切でないと判断されます。



③復職困難なとき

いたずらに温情をかけず、制度に基づいて粛々と対応します。退職の機会は休職満了時の一度しかありません。ただ退職になる場合でも、非難感情を和らげるためにも、退職後の生活保障につてきちんと説明してあげることが肝要です(傷病手当金、失業保険、障害年金、社会保険の切り替え、住民税や確定申告など)。

 

④最後にメンタルヘルスを減らすための労務管理


1)コーチングセンスを磨く
基本的スキルは質問と傾聴につきます。その中でもうなづく・笑顔・承認・感謝・誉めるは、コーチングの代表格です。
ストレスは単に労働時間や仕事の難易度で決まるのではなく、ストレス反応に与える影響が大きいのはストレス増強要因より緩和要因です。
①仕事の量 ②仕事の質 ③人間関係 < ④裁量権 ⑤達成感 ⑥上司同僚の支援
← ストレス増強要因 →               ← ストレス緩和要因 →

2)ハラスメントはしない
ア)セクハラ   男女雇用機会均等法違反!!
イ)パワハラ   職場において職務上の地位や影響力に基づき、相手の人格や尊厳を侵害する言動を行うことにより、その人や周囲の人に身体的・精神的な苦痛を与え、その就業環境を悪化させること。労災認定もされ易い。

3)長時間労働(過重労働)はさせない
月80時間以上の時間外労働はイエローカード、100時間以上はレッドカードと考えるべき。

4)無理な退職勧奨はしない


文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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