社会保険料を削減します・・・・ 魔の誘惑???

「社会保険料を削減できます!!」なんて、ダイレクトメールが届くことがあるようです。またそのようなセミナーも行われているようです。
毎年値上がりして行く社会保険料。何で、他人の保険料を会社が負担しなきゃいけないの?
利益に関わらず振替えられるその額の多さに憂鬱になる経営者もいらっしゃることでしょう。何とか削減できるものなら削減したい・・・・・・・。そのような誘惑に駆られるのも無理はありません。

私はそのようなセミナーに参加したことはありませんが、おおよそ話されていることは想像が付きます。恐らくこんな対策だと思われるのです。
①2箇所給与にする
②個人委託契約に切り替える
③賞与を給与と合算で支払う
④4,5,6月の残業代を賞与で先払いする
⑤短時間パートを活用する
⑥派遣労働者を活用する
⑦常勤役員を非常勤にする
⑧4,5,6月の残業を抑制する
⑨昇給は7月に行う
⑩月末退職を避ける


この中で削減効果が絶大なのが①及び②なのですが、これは少し如何わしい。法違反か脱法行為か、違法に限りなく近いグレーゾーンなのです。


①2箇所給与とは如何なるものか

これは1名に対する給与を2箇所以上の複数の法人より支給して、社会保険加入はそのうち1箇所のみで行い、保険料徴収対象となる給与を抑えて保険料を免れようとするものです。例えば今までA社で350,000円の給与を支払っていたとすると、会社負担の社会保険料は55,004円です(大阪の会社、サービス業、40歳以上、労働保険料を含んだ場合)。


しかしこれをA社から192,500円、B社から157,500円、合計350,000円として、そのままA社で社会保険加入とすると、
A社 負担額29,119円、B社 負担額0 となり、つまり1名で25,885円も削減できるのです・・・・・・・・・。


でもちょと待ってください。

社会保障制度は税金とは違い、支払に対するリターンがあることを忘れてはなりません。つまり、目先の削減のためにリスクやデメリットを負うのです。


(デメリットとは)

A 従業員のデメリット


ア.老後の年金額が減る

厚生年金は掛けた保険料に比例して支給額を増額させる仕組みになっていますので、上記の例ではB社の給与は年金額に反映されず、老後の保障が脅かされます。


イ.年金は老齢年金だけではありません。同じ保険料で障害や遺族年金の権利も確保できるのですが、これも同様に減額になります。特に奥さんが老後一人取り残された場合の夫の遺族年金は非常に重要です。

一方で、会社負担額の削減と共に、従業員の手取り額もアップするので、それを個人年金等の積立に回した方がいいというご意見もあることでしょう。しかし、個人年金は有期年金であり、物価変動にも弱く、いつまで生きるか分からないリスクのある長寿社会において、終身年金である公的年金の威力は考慮すべきです。


ウ.離職した場合に失業保険が低くなる

先ほどの例ですと、350,000円の6割ではなく、192,500円の6割しか受給できなくなります。


エ.健康保険、労災保険からの給付も下がる

両制度には傷病手当金、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付など、給与に応じて支給される保険給付がたくさんあります。例えば一番事例の多い健康保険の傷病手当金。業務外の傷病で休業する場合に給与の約66%を支給してくれるものですが、従業員は欠勤していますから、350,000円の給与が全額止まった中で、保険給付は192,500円の66%(126,600円)しか出ないのです。



B 会社のデメリット


ア.社会保険の適用は本来複数個所からの給与でも、1箇所で合算して申告するのが正規のルールとなっています。また一度に大量の従業員を降給する場合やその減額幅が大きい場合は、社会保険指導調査の対象となりやすく、遡及して思わぬ出費を強いられる可能性があります。


イ.手取りが増え、中には当面は喜ぶ社員もいるかも知れませんが、いざ自分や家族がデメリットを受けることとなった将来において、思わぬトラブルに発展することも考えておかなければなりません。最近の年金記録確認問題でも、もらっていた給与に対して記録上の等級が低いとして、大問題になっています。


ウ.真っ当な感覚を持った従業員であれば、会社のこのような措置に対してどんな風に感じるでしょうか?不信感やモチベーションの低下を招かないでしょうか?色々なところへ申告、相談に行かないでしょうか?目先の削減に対して失うものはないでしょうか?


真っ当な経営、王道見失わず。誘惑の前にご検討いただきたいものです。


文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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