名ばかり管理職とはいかなるものか?(H20.6月号の記事)

★マクド裁判 
 さる1月28日に日本マクドナルドの店長が労働基準法上の管理監督者にあたるかどうかの判断が東京地裁から下されました。結論から申し上げると、マクドの店長は管理監督者に当らないとして、残業代の支払い(約750万円)を命じました。これはあくまでも訴訟を起こした1名の店長に対するものです。このニュースはテレビ、新聞が一斉にかつ大々的に報じたため、かなりセンセーショナルなインパクトを与えたようです。
 しかしこの裁判ではいわゆる管理監督者に対して、新しい判断の枠組みを示したものではなく、従来からある通達や判例法理の範囲から逸脱するものではありません。そして今回もそうですが、この手の紛争は会社側がほとんど敗れているのです(マクド裁判は現在控訴中で確定していませんが)。つまり残業代を払わなくていい管理者のハードルは極めて高いのです。一般的に誤解のある、管理職=残業代の要らない管理監督者という単純な図式ではありません。

文責 社会保険労務士 西村 聡
★管理監督者とは何か
 ここで改めて残業代の要らない管理者の判断基準をおさらいしておきましょう。大雑把に言って、以下の3要件をすべて満たす必要があります。
①一つ目の要件 経営者と一体的な立場にあるかどうか
 これはさらに以下の2要素に分解することができ、いずれかをクリアする必要があります。
 (1)経営の意思決定業務への関与(例えば経営方針、計画への参与など)
 (2)労務管理上の重要な権限(例えば基幹社員の採用、考課など)
 要するに会社全体にとって重要な権限や役割を有している必要があり、一部署に留まるとか、仕事内容が一般社員と大差がない状態では認められていません。
②二つ目の要件 勤務時間に自由裁量があるかどうか
 一般社員と同じようにタイムカードを打って、朝から晩まで拘束されており、出退勤に自由がない状態では困難です。
③三つ目の要件 管理者としてふさわしい待遇が講じられているかどうか
 例えば基本給水準が明らかに高い、役職手当が高額など。残業のある下位の従業員の年収を下回るようだとアウトで、相当上回っている必要があります。

★ものは考えよう
 従来私は、大手企業ですらほとんど認められない管理監督者が、中小企業で認められるのは極めて困難と考えていました。実際、先の判断基準からも分かるように、「役員と部長の違いは何なの?」と問いたくなるようなハードルです。特に1番目の要件は極めて高く見えます。
多くの拠点を有する大手企業の管理職がその守備範囲を超えて、経営者と共に会社全体に権限を及ぼすなどということは普通ありえません。しかし中小企業の場合はどうでしょうか。組織単位も小さく、しかも社長に近い位置関係で仕事をしているのが普通です。つまりむしろ大手企業の方が物理的に困難なシチュエーションであって、中小企業は社長の考え方、任せ方一つで単なる管理職を名実共に管理監督職にするのは大企業よりも近道かもしれません。ただ組織が小さい分だけ対象者の数も絞られることにはなりますが。
 
★ちょっとだけ具体策を考えよう
 経営者が「俺はこいつを管理監督者として処遇する」とまず腹を決めたら、このように実行しましょう。
①経営計画書を作成している会社は、その作成に管理者も巻き込みましょう。経営者の方針を伝えるだけでなく、自ら案を出させて作成に関与させることです。
 そして社長と共に経営会議に参加し、進捗状況や手直しなど発言する機会を与え、単に社長が演説するのを聞いているようなことは避けましょう。
②管理職はタイムカードを廃止しましょう。やることをやっていたら、所定労働時間をキチンと来ることを評価のモノサシにすることはやめましょう。完全月給制にして欠勤や遅刻があっても日割りはやめましょう。時間で仕事をする人間ではなく、中味(成果や役割)で仕事をする特別な責任があることを懇々と説明しましょう。
③一般社員がそこそこ残業しても、収入が逆転しないような役職手当を考えましょう。出来たら役職制度の整備と就業規則上の役職手当の整備は必要のように思われます。

 ただ仮に法律上の管理監督者には当らなくとも、管理職の旗を降ろすわけではありません。何のために管理職に任命しているのか、ただ単に残業代を逃れたいためだけなのか、経営者は今一度自問自答する必要があるかもしれません。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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