いまなぜ解雇規制の緩和なのか その背景&論点を整理する

ヤフーの記事もある程度まとまったものを載せるようになった。

《「正社員」とは仕事内容を限定しない、期間の定めのない雇用契約で働いている社員、「非正規社員」は仕事内容を限定した契約社員や、パートタイマー・アルバイト・派遣社員などのように期間を定めた雇用契約で働いている社員を指す。言い換えれば、安定的な雇用と相対的な高賃金を代償に、転勤・残業もいとわない無限定な労働を強いられるのが正社員で、正社員ほど無限定な労働は強いられないものの、雇用は不安定で賃金は低いというのが非正規社員と言えるだろう。》

労働問題はなかなか簡単ではない。企業規模が違えば、大資本なら大資本の問題があるし、小資本は小資本の問題がある。また、業種が違えば、それぞれ固有の問題を抱える。さらに会社や支店、部署の色合い、上司そして同僚と部下、取引先などの人間関係があり、労働法やその関連法規だけではカバーされておらず、労働契約法と民法一般原則まで総動員してこなければならず、そしてその範囲は入社の経緯から始まり事件化するまでに至る過程がある。また、そうした事実の認定は、意識下に置くまでの間、なおざりであるのが普通で、証拠がなければ(こうなるんであったら…)、証拠があれば(初めからそのつもりだったのか、もはや信用できない)といった体になる。
上の記述においても、パートは時間管理による賃金計算と結びついているだけに時間外労働や有休の支払は履行される傾向があるが、正社員の基本給は時間管理とは直接的な性質ではないためということである。法的にそれは理由にならず、「名ばかり管理職」などその違法性は認識されたが、さりとて人事管理手法の改良にまで及んだといえる状態ではなさそうである。

《非正規社員は一般的には正社員よりも短い時間で働くことが多い一方で、待遇面で正社員と大きな格差がある。例えば、給与が少ない(退職金、ボーナスがない)、雇用が不安定、キャリアアップがしづらい、といった点だ。》

パート労働法がたまに話題になるものの、法体系において中心的な存在とはまだいえない。日本史において、「男性社会」を崩さずに「女性労働者」を使う蜜月があったが、家庭における大黒柱である中高年齢層のリストラ、若年者の就職難、女性の社会進出、少子高齢化により、また均等法の推進で、ここにきて既に六割以上程度は労働の現場は崩れたといっていいと思われる。団塊の世代も去る今日、すべてにおいて不安定な環境しか見えていないだろう。言い換えれば、もう終身雇用制を経験したことのない(知らない)世代が多数を占めつつあり、その職場は不安定以外何ものでもなく、痴話喧嘩のような騒ぎで事件化するのがオチである。したがって、アベノミクスの雇用対策はまだ玄関先での話に過ぎない。どちらかといえば、目下の議題では法対象を特定のものに限定するのがよいと思うほどだ。なお歴史の観点では整理が必要な時期に入っているものと感ずる。

《「整理解雇の4要件」(人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、対象者の人選の合理性、手続きの妥当性)から、その妥当性が判断されることになっている。》

整理解雇が認められた判例から、「限定正社員」ということなのだが、これまた果たして法による認定作業を免れるとも思えない。「地域や職種、労働時間を限定して採用した場合、その仕事がなくなれば解雇できるという契約」を予定しているが、そうした人事権を制限した契約がそれほど必要かどうか。「その仕事がなくなれば」という要件もまたすこぶるクリアすることが難しく思われる。結局、権利の濫用法理を使わざるを得ないのではないか。無論、適用がピタッと嵌るものもあるだろうが、割合として実際のところ少ない
と思われる。特定の業種に偏るのであれば、まずは法対象を限定あるいは特定するのが手順としてふさわしい。

《政府は参院選を意識してか、最も大きなこの問題を正面から取り上げず、金銭による解雇、限定社員という個別論から入ろうとしている。》

うん?私が以前見た記事では、金銭解決解雇は選挙を考慮して外したものであった。なお、金銭解決解雇は労働側では歓迎する向きもあり、その法制化を今度は使用者側が嫌い始めたようにも思われる。
結論として、もはや「三種の神器」の時代を知らぬ経営者も労働者も多く存在するようになり、それぞれ目前の事しか視界に入っていない。それぞれの倫理観も薄れている。『美しい国』―未読なので言葉のイメージだけ―を書いた首相なだけに、グランドビジョンを望む。