社会保険労務士が労使紛争解決業務ができるようになって、そろそろ久しいと言わねばなるまい。
しかし、積極的に業務がなされていない。ここ数年実績が上がった状態でしかない。
何故か。

・特定社労士制度ができ、皆業務内容をよくわからぬままに「こういうのは最初が取りやすい」と取ったというよくある話。また、それも、大号令の下での翼賛式の大時代物。
・「あっせん代理」導入時の記憶が強く、その当時は労務管理の延長業務という捉え方であった。その印象で止まっている先生方がほとんどである。しかしそれから少しして「紛争解決代理業務」という性格替えが行われており、その理解が未到達である。「紛争解決」の定義は、あっせんは無論のこと、労働審判、訴訟、仮処分等諸メニューでの解決のことをいう。そして、特定社労士ができる業務はあっせんとされ、労働局以外のADRにおいては別途制限が設けられている。したがって、当初の労務管理の延長という姿勢で臨んでは斯界においてまったく無防備の状態なのである。ただし、弁護士の社労士登録が増えており、意見交流を含め、新たな展開を孕む。
・団交については、同時期に制限が取り払われた。代理するものではなく、労務管理の一環とするものである。団交事項においては法的範囲より広く、経営権の是正を直接交渉することができるものであるから、より好ましい方向付けが可能である。
・あっせん参加が期待できない事案については、強制力のある裁判所事案となる。したがって、着手金より後は請求できない事案が多い。結局、依頼者のため、整備した基礎資料等はそのまま弁護士に無償で譲ることになってしまい、(弁護士は自己の判断のために再整理するにしても)、成功報酬なき着手金では利益がない。(契約の仕方の話でもあるが)

とはいえ、少しずつ実績を積んできた先生の数が増えつつある。また、各社労士会ではパラツキがあるが、社労士会連合会のHP内では、労務管理の延長止まりではない認識による紛争解決講座が行われている(会員限定)。
本来、国内における個別労使紛争事案の解決に弾みをつける特定社労士制度なのである。
裁判は事実認定にまず時間をかけるし、裁判所ルールはあまり国民のものになっていない。弁護士は費用が高いか、安くとも費用をかけてまでという泣きっ面に蜂を敬遠する。そこで、あっせん制度ができたが、事前交渉が弱い素人では相手をテーブルに着かせるのは難しい。よって、団交か審判に偏ることになる。
私は「代理権」というのは労働紛争においてそぐわないとも考えている。事実認定がほとんど占める性質なので、詰まる所、当事者が前面に出てもらわないと困るわけで、代理する者としても安心でき、同伴するかたちがベストだと考えている。或いは支援形態であるが、これは相当熟練の技となる。
なお、紛争解決実務の観点のない従前の労務管理認識では、労働相談なら特にそうであるが、もはや通用しないのである。そのうえ、幾つかの労働社会保険諸法令の改正も進行していくため、社労士は大変。