産業競争力会議 分科会

「残業代なし労働制度」「解雇無効時の金銭解決制度」など新聞の見出し記事が衝撃的であるが、新聞もそれほど詳しくは書いていないため、誤解を無駄に生んでいることが多いものと感ずる。
たまたま、「休息時間」についても議題とされていることをはじめて知り、議論が繰り広げられているこの産業競争力会議 分科会のホームページを訪ねることにした。

法律にもなっていない段階の議論は、徒労感の拭えないものであることも多いが、一方で制度の趣旨であるとか制定事情などが出されていて興味深いこともある。ここでの議論は後者であり、非常に興味深く、新聞記事(私の書き込みも含めて)などでよくも悪くも関心をもった者は手前解釈せずに(しながらでも)知るべきであると思った。

そこそこ分量もあるので、とりあえず今年4月9日の第9回要旨を読んでみた感想である。
なかでもP10の西村内閣府副大臣と岡田弁護士の話は、政策・政府関係者もいよいよ日本の労働紛争の実態に触れたもの、といえる。また、全体的ベースでは、企業間格差の認識が浸透していることがよくわかった。

労働契約や規則あるいは労働条件もしくはその詳細というのは、各企業なりにそれぞれ特色がある。まして上司や同僚らとの人間関係も含めれば、到底一律に扱えるものでありえない。実務でいえば、経理ソフトは一通り使い方さえ覚えれば使いこなせるようになっているが、人事ソフトはあまり活用されないように、オートメーション化はなかなか難しい。給与ソフトですら、経営権が働き、調整給など独自の設定があらかじめ出来るように工夫されているほどである。つまり、手計算、手打ち作業ができるのが便利だという、ソフトの性質からいえば矛盾するのが給与ソフトである。

集団的紛争解決(なお、労組は労使関係の改善などその役割はここで取上げられているものよりも大きいが―)から個別紛争解決へ移っている。現下、岡田弁護士が述べたとおり、5万のうち相当の相談者が裁判所へ行けていないことから現状への対策機運が司法から起こることは今のところ無い。現下、裁判所は解雇無効と認定できるが、復職を命じる権限はない。
※偽装請負は派遣法違反であり、派遣先との雇用関係をだからといって認められるものではないというのが昨今の裁判例である。平成27年10月施行の改正派遣法ではそれを雇う義務ありとするところまで踏み込んでいる。法律で義務ありと規定されたが、雇う意思がなければ契約は成立しないというところで、私法的な解釈は踏みとどまるので悩ましい。(8/15修正加筆)

ようやく政策・政府関係者に日本の会社の特色が認識に上り始めたことは大きい。企業間格差、労・労格差などが認識された。また裁判を受ける権利はあるが実際には一握りの者しか裁判所は把握しておらず交通事故案件のように標準化できる状態ではない。日本の雇用ルールがわかりにくいのは確かで、それだけ雇用に関して各企業が自己の権利として自由に設定してきたといえる。この議事の延長には、解雇無効に加えて金銭解決の選択が見え、その水準の設定、その標準性の実効補強などがある。

今まで良くは書かなかった長谷川主査からの定義確認。「日本再興戦略は、企業が活動しやすい国、世界でトップレベルの雇用環境というようなキーワードで策定までの議論を進めてきた。それにより、対内直接投資を増やしたり、あるいは多くの外国人が働くようになったりといった、様々なことで競争力を高め、経済成長に貢献する(以下省略)P9」。
雇用は「聖域」ではない。ただ、現実をみれば、標準化できそうな状態ではないため、政策・政府関係者も手を拱いているものと考えていた。会社は「城」という認識が強い、同一労働同一賃金といって時給2千円ももらうと若い者は逆に不安になる、とか、そんなことはともかく、いずれにせよ、この産業競争力会議 分科会の議論を注目したい。