『6 未決勾留について』

《勾留というのは一種の刑罰であるが、ただ必要上から、裁判上の刑の宣告にさきだって科される点で他の刑罰とことなっている。しかしこの性質の相異は、この刑から他の刑罰一般のもつ本質的な性格をいささかも失わせるものではない。すなわちこの刑も他の刑同様、法律に制定されたばあいにかぎって科されるべきものである。
であるから、一人の被疑者が逮捕され、審問に付されるためには、犯罪があったことをあらわすどのような証拠がなければならないかを、はつきりと規定した法律が制定されなければならない。
世間でさわがしく非難していること、逃亡、私的にした自白、共犯者の証言、犯人がやりそうな被害者への脅迫やしつっこい敵意のあらわれ、罪体の存在、その他これに似た犯罪を推定させる証拠、これらが一人の市民を拘留するために足りる証拠である。》

現行の日本の法律では、「拘留」が上記の刑罰にあたる。また、「勾留」は身柄拘束のことを指す。人事労務の世界では拘留に該当するものとして、出勤停止処分(無給。懲戒規定に依る)があり、勾留に該当するものとして自宅待機命令(有給。業務命令)がある。

《しかしこれらの証拠は、すべて裁判官によらず、法律によって確定されていなければならない。裁判官の判決は、それが単純に、法典から出た普遍的な規定の特定ケースへの適用でないばあいには、社会的自由への侵害になる。》

《訴追をうけ、勾留されたのちにおいて無罪となった者はいささかも汚名をきせられるべきではない。》
《それは現在の刑事制度が、われわれの精神に、正義の観念より、むしろ力と権力の観念をうかべさせるからだ。被告人と服役者を同じ監房の中に入れるからだ。》

現行の日本法では拘留刑の言い渡しから拘留が始まるというから事情は異なる。