宇野千代さんは95歳のとき本を書き上げたそうだ。
「生きる幸福 老いる幸福」という本だが、この本の中で「私の生き甲斐は仕事である」と書いてあり、そしてこうも書いてあるという。
「私の知っている人に、まだ60歳には間のある人が、死んだので押し入れを開けたら、経帷子(きょうかたびら)をはじめ、死に装束一切に、棺にぐるりと巻く晒しの布まで揃えて置いてあった。
感心な人だと褒める人もいたけど、私はそうは思わなかった。死ぬ用意をしていても、死にたいと思っていたわけでもあるまい。最後の瞬間まで、生きる気力を失くさなかった、というほうが好きである。死ぬことなど、予想しないことが健康の要諦ではあるまいか」
こんなふうだから、「貴方の生き甲斐は?」と尋ねられると、「仕事と和服をデザインすることです」と答えるそうだ。年は95歳にしてである。
95歳で仕事が趣味と言える人は、男でもそういないはず。いま男の仕事も、分業化と専門化が進み、その上分業化は細分化を伴い、いくら頑張っても、「おれは自動車を作って〇十年も過ごした。だからこの経験を生かして自動車を作っているんだよ」と言える人はいないと思う。
会社でいくら車を作っても、その経験をもとに「95歳になって、車作りが私の趣味だ」とは言える人はいない。
いや、95歳で現役という人がいた。聖路加国際病院理事長の日野原重明先生(故人)がいらした。
こんな例外は別にして、95歳で現役はなかなか見つからない。