11年11月28日
中小企業のメンタルヘルス問題 ①
~今やどこの企業でも精神疾患で休業する労働者が発生する可能性が~
うつ病などメンタルヘルス(心の健康問題)で休業する労働者が増えています。私共のお客様においても、必ずどこかの企業の誰かが精神疾患により、傷病手当金の申請をしている状況で、私が開業した15年前には想像すらできませんでした。メンタルヘルスが労務問題になるとは全く予想できなかったのです。しかし今や中小企業においてもこの問題は対岸の火事ではありません。どこの中小企業で起こっても不思議でない世情になってしまっているのです。そして一度発生すれば、罹患した本人はもとより、雇用する使用者も非常につらい思いをすることになります。そこで今回より、非常に身近になってしまったこのメンタルヘルス問題について、シリーズにて考えてゆきたいと思います。
1.メンタルヘルス対策はコンプライアンス(法令遵守事項)となった
まず従業員の健康に配慮することが法令上も必要になっていることをお話します。今回は法律の話が入りますので、少々硬くなることをお許しください。
過去10年間に渉って、日本人の自殺者数は毎年3万人を超えており、交通事故で死亡する人よりも多く、先進国でも突出した数字となっています。その中の多くの人は、何らかの精神疾患に罹患していたと推定されております。またこれを労働者数だけで限定しても、9千人前後で推移しており、精神疾患で労災認定される人の数も平成13年から右肩上がりで増加しており、この状況は逓減する気配がありません。
現在政府においても、労働安全衛生法の改正が予定されており、そこでは従来の健康診断の延長線上で、医師による精神的健康の状況把握が義務付けられ、その通知を労働者本人に行い、その検査結果を受けた労働者が事業主に申し出れば、会社は医師による面接指導を受けさせなければならず、その面談の結果、必要な場合には労働時間の短縮や作業転換などの配慮措置を行わなければならないことになる見込みです。早ければ来秋から施行される予定です。
また現行法においても、使用者には労働者への健康問題に留意すべき根拠規定が設定されており、被災者はこれらを根拠に会社や使用者に対して、損害賠償請求をしてくることがあります。
(労働者の安全への配慮)
使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
【労働契約法第5条】
いわゆる安全(健康)配慮義務といわれるものです。その意味は簡単に申しますと、「通常の人ならこのまま放置すれば危険な状態になるのを予測できるにもかかわらず、何ら適切な措置を取らなかった為に、その危険が現実のものとなってしまった」というような場合に、会社の責任が問われるこことなります。そしてここで争われる金額は億単位の金額です。中小企業なら一たまりもありません。
(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。【民法第715条】
例えば管理者の労務管理がずさんで、部下に長時間労働を行わせ、それが基で健康を害したような場合、管理者がおこなった不法行為の責任を事業主も追わなければならないリスクがあるのです。
(健康診断)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない【労働安全衛生法第66条】
会社は毎年1回、定期健康診断を行わなければなりません。これを行わず、有所見がある事実を把握せず、適切な措置を取らなかったために重大な事態を招来すれば、その結果に刑事罰を伴う、重い責任が課される可能性があります。
(衛生管理者)
事業者は政令で定める事業所ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対して意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。【労働安全衛生法第18条】
一から三省略 四 前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項
50人以上の事業所では衛生委員会を設ける義務があり、その中の審議させる重要事項に「労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること」が含まれており、それを怠ると、以下の会社法などにより、役員は責任追及される可能性があります。
(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。 【会社法第429条】
少し退屈ですね。でもここで理解して頂きたいのが、ひとたび従業員が業務上、健康問題をかかえることとなったとき、使用者の責任はあらゆる方向で追及され、その賠償額は会社を潰してしまうほどのリスクになるということなのです。メンタルヘルス問題も例外ではありません。
従って次回からは、使用者にも最低知っておいて頂きたいメンタルヘルスの基礎知識について話をすすめて行きたいと思います。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
うつ病などメンタルヘルス(心の健康問題)で休業する労働者が増えています。私共のお客様においても、必ずどこかの企業の誰かが精神疾患により、傷病手当金の申請をしている状況で、私が開業した15年前には想像すらできませんでした。メンタルヘルスが労務問題になるとは全く予想できなかったのです。しかし今や中小企業においてもこの問題は対岸の火事ではありません。どこの中小企業で起こっても不思議でない世情になってしまっているのです。そして一度発生すれば、罹患した本人はもとより、雇用する使用者も非常につらい思いをすることになります。そこで今回より、非常に身近になってしまったこのメンタルヘルス問題について、シリーズにて考えてゆきたいと思います。
1.メンタルヘルス対策はコンプライアンス(法令遵守事項)となった
まず従業員の健康に配慮することが法令上も必要になっていることをお話します。今回は法律の話が入りますので、少々硬くなることをお許しください。
過去10年間に渉って、日本人の自殺者数は毎年3万人を超えており、交通事故で死亡する人よりも多く、先進国でも突出した数字となっています。その中の多くの人は、何らかの精神疾患に罹患していたと推定されております。またこれを労働者数だけで限定しても、9千人前後で推移しており、精神疾患で労災認定される人の数も平成13年から右肩上がりで増加しており、この状況は逓減する気配がありません。
現在政府においても、労働安全衛生法の改正が予定されており、そこでは従来の健康診断の延長線上で、医師による精神的健康の状況把握が義務付けられ、その通知を労働者本人に行い、その検査結果を受けた労働者が事業主に申し出れば、会社は医師による面接指導を受けさせなければならず、その面談の結果、必要な場合には労働時間の短縮や作業転換などの配慮措置を行わなければならないことになる見込みです。早ければ来秋から施行される予定です。
また現行法においても、使用者には労働者への健康問題に留意すべき根拠規定が設定されており、被災者はこれらを根拠に会社や使用者に対して、損害賠償請求をしてくることがあります。
(労働者の安全への配慮)
使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
【労働契約法第5条】
いわゆる安全(健康)配慮義務といわれるものです。その意味は簡単に申しますと、「通常の人ならこのまま放置すれば危険な状態になるのを予測できるにもかかわらず、何ら適切な措置を取らなかった為に、その危険が現実のものとなってしまった」というような場合に、会社の責任が問われるこことなります。そしてここで争われる金額は億単位の金額です。中小企業なら一たまりもありません。
(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。【民法第715条】
例えば管理者の労務管理がずさんで、部下に長時間労働を行わせ、それが基で健康を害したような場合、管理者がおこなった不法行為の責任を事業主も追わなければならないリスクがあるのです。
(健康診断)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない【労働安全衛生法第66条】
会社は毎年1回、定期健康診断を行わなければなりません。これを行わず、有所見がある事実を把握せず、適切な措置を取らなかったために重大な事態を招来すれば、その結果に刑事罰を伴う、重い責任が課される可能性があります。
(衛生管理者)
事業者は政令で定める事業所ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対して意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。【労働安全衛生法第18条】
一から三省略 四 前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項
50人以上の事業所では衛生委員会を設ける義務があり、その中の審議させる重要事項に「労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること」が含まれており、それを怠ると、以下の会社法などにより、役員は責任追及される可能性があります。
(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。 【会社法第429条】
少し退屈ですね。でもここで理解して頂きたいのが、ひとたび従業員が業務上、健康問題をかかえることとなったとき、使用者の責任はあらゆる方向で追及され、その賠償額は会社を潰してしまうほどのリスクになるということなのです。メンタルヘルス問題も例外ではありません。
従って次回からは、使用者にも最低知っておいて頂きたいメンタルヘルスの基礎知識について話をすすめて行きたいと思います。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
11年11月10日
従業員の能力(レベル)アップの方法を考える その6
従業員の能力(レベル)アップの方法を考える その6
1.能力基準でなく、仕事基準で考える(キャリアアップシートの活用)
2.対象者の損益分岐点を探る(給料分の稼ぎとはいくらか)
3.自分で対策を考えさせる
4.グラフを使って視える化する
5.毎月チェックする
6.いい行動は強化する
7.インセンティブを与える
8.指導担当責任者を決める
前回は上記のうち、5の「毎月チェックする」について申し上げました。今回はその第6弾、「いい行動は強化する」「インセンティブを与える」「指導担当責任者
を決める」について一気にお話いたします。
「いい行動は強化する」について
行動分析学という心理学の学問があります。ここでの人間に対する考え方は、人を性格や能力という漠然としたもので捉えるのではなく、表に出ている行動に着目
し、それを制御することによって、教育指導して行こうとするものです。例えば次をご覧ください。
管理者 承認(笑顔)なし ⇒ 社員 {会議で進んで発言する} ⇒ 管理者 承認(笑顔)あり
仮に会議で積極的に発言しない人がいたとします。会社は積極的に発言して欲しいと思っています。その人が発言をしました。すると発言することによって管理者
から承認(笑顔)という反応が返ってきました。これは{会議で進んで発言する}という望ましい行動を承認によって強化したことになるのです。
ポイントは{ }の部分です。この中に行動が入るわけで、それが望ましい行動ならその後の返しは承認(笑顔、褒める、うなずく)になり、望ましくない行動な
ら指導・注意して弱化してゆくこととなるのです。非常に単純な理屈です。またこれには60秒ルールというのがあって、直ぐに承認しないと、後からでは強化しにく
いと言われています。ですから良いと思ったことは直ぐに承認が原則なのです。が、実際は難しい。だからこそ、前回申し上げた毎月5分チェックの時間を仕組みで取
り入れ、何か月分も溜めないように承認して、望ましい方向へ誘導して行くのです。
「インセンティブを与える」について
前回モチベーション理論をお話しました。金銭は動機付けにはならないのがセオリーです。行動そのものを承認し、その社員に人間としての誇りと居場所を与え、
効力感を持たせることが最重要なのですが、しかし何ら報酬に反映されないのも考えもの。また管理する立場から言っても、何も物理的に与えず、承認光線だけを出
して管理してゆくのは実際問題としてやりにくい。
でも給与が振り込みで、給与明細に報奨金が載っているだけでは、有難味も薄い。やはり金一封封筒に入れ、短く理由を伝え、直接お渡しする方がいいでしょう。
但しきちっとした給与賞与制度があれば、その仕組みで受け止めてゆけばそれでも構わないでしょう。
「指導担当責任者を決める」
リンゲンルマン効果(社会的手抜き)という心理学理論があります。1対1で綱引きをすると100%の力で引き合うが、2人一組で引くとその力は93%まで下がり
、3人で引っ張り合うと85%というように人数が多くなればなるほど、各人の力は最大限発揮されず、逓減してゆくという理屈です。つまり「誰かがやってくれるだ
ろう」と責任分散の気持ちが生まれ、手抜き現象が起こることをいいます。
人材育成にはこのリンゲルマン効果を防止しなければなりません。誰かが教えるのではなく、教える責任担当者を決めることが肝要です。また人に教えるというの
は自分が分ってること、できることとは別次元に難しいものです。教える立場の社員も成長します。
必ず責任担当者を決めましょう。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
1.能力基準でなく、仕事基準で考える(キャリアアップシートの活用)
2.対象者の損益分岐点を探る(給料分の稼ぎとはいくらか)
3.自分で対策を考えさせる
4.グラフを使って視える化する
5.毎月チェックする
6.いい行動は強化する
7.インセンティブを与える
8.指導担当責任者を決める
前回は上記のうち、5の「毎月チェックする」について申し上げました。今回はその第6弾、「いい行動は強化する」「インセンティブを与える」「指導担当責任者
を決める」について一気にお話いたします。
「いい行動は強化する」について
行動分析学という心理学の学問があります。ここでの人間に対する考え方は、人を性格や能力という漠然としたもので捉えるのではなく、表に出ている行動に着目
し、それを制御することによって、教育指導して行こうとするものです。例えば次をご覧ください。
管理者 承認(笑顔)なし ⇒ 社員 {会議で進んで発言する} ⇒ 管理者 承認(笑顔)あり
仮に会議で積極的に発言しない人がいたとします。会社は積極的に発言して欲しいと思っています。その人が発言をしました。すると発言することによって管理者
から承認(笑顔)という反応が返ってきました。これは{会議で進んで発言する}という望ましい行動を承認によって強化したことになるのです。
ポイントは{ }の部分です。この中に行動が入るわけで、それが望ましい行動ならその後の返しは承認(笑顔、褒める、うなずく)になり、望ましくない行動な
ら指導・注意して弱化してゆくこととなるのです。非常に単純な理屈です。またこれには60秒ルールというのがあって、直ぐに承認しないと、後からでは強化しにく
いと言われています。ですから良いと思ったことは直ぐに承認が原則なのです。が、実際は難しい。だからこそ、前回申し上げた毎月5分チェックの時間を仕組みで取
り入れ、何か月分も溜めないように承認して、望ましい方向へ誘導して行くのです。
「インセンティブを与える」について
前回モチベーション理論をお話しました。金銭は動機付けにはならないのがセオリーです。行動そのものを承認し、その社員に人間としての誇りと居場所を与え、
効力感を持たせることが最重要なのですが、しかし何ら報酬に反映されないのも考えもの。また管理する立場から言っても、何も物理的に与えず、承認光線だけを出
して管理してゆくのは実際問題としてやりにくい。
でも給与が振り込みで、給与明細に報奨金が載っているだけでは、有難味も薄い。やはり金一封封筒に入れ、短く理由を伝え、直接お渡しする方がいいでしょう。
但しきちっとした給与賞与制度があれば、その仕組みで受け止めてゆけばそれでも構わないでしょう。
「指導担当責任者を決める」
リンゲンルマン効果(社会的手抜き)という心理学理論があります。1対1で綱引きをすると100%の力で引き合うが、2人一組で引くとその力は93%まで下がり
、3人で引っ張り合うと85%というように人数が多くなればなるほど、各人の力は最大限発揮されず、逓減してゆくという理屈です。つまり「誰かがやってくれるだ
ろう」と責任分散の気持ちが生まれ、手抜き現象が起こることをいいます。
人材育成にはこのリンゲルマン効果を防止しなければなりません。誰かが教えるのではなく、教える責任担当者を決めることが肝要です。また人に教えるというの
は自分が分ってること、できることとは別次元に難しいものです。教える立場の社員も成長します。
必ず責任担当者を決めましょう。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com