●従業員を懲戒(制裁)処分したいと思ったとき  その3
~懲戒はハードルが高いことを理解しよう~

このシリーズの最後の回となりました。1回目は懲戒処分を行うにはルールがあることを、2回目では懲戒処分の種類について解説いたしました。今回は最も悩ましい、非違行為と処分内容とのバランスについて考えたいと思います。

ここで参考になるのが人事院通知「懲戒処分の指針について」です。これは公務員に対する懲戒処分の指針であり、そのまま民間企業に当てはめるのは適当でないケースもあるのですが、実務上、非常に参考になります(※1)。
(※1)公務員は憲法によって全体の奉仕者とされ、法律によりストライキ、政治活動、兼職などが禁止され、守秘義務が課せられており、刑罰の対象になるなどの違いがある。従って民間人よりも、その運用は厳しいものになると考えられる。


その指針は、量刑を判断するにあたって、以下の点に留意することとしています。


第1 基本事項

  具体的な処分量定の決定に当たっては、

 1 非違行為の動機、態様及び結果はどのようなものであったか
 2 故意又は過失の度合いはどの程度であったか
 3 非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか、その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか
 4 他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか
 5 過去に非違行為を行っているか

 等のほか、適宜、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上判断するものとする。

 個別の事案の内容によっては、下記標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得るところである。例えば、標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合として、

 1 非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき又は非違行為の結果が極めて重大であるとき
 2 非違行為を行った職員が管理又は監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき
 3 非違行為の公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき
 4 過去に類似の非違行為を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがあるとき
 5 処分の対象となり得る複数の異なる非違行為を行っていたとき

 がある。また、例えば、標準例に掲げる処分の種類より軽いものとすることが考えられる場合として、

 1 職員が自らの非違行為が発覚する前に自主的に申し出たとき
 2 非違行為を行うに至った経緯その他の情状に特に酌量すべきものがあると認められるとき

 がある。なお、以下の標準例に掲げられていない非違行為についても、懲戒処分の対象となり得るものであり、これらについては標準例に掲げる取扱いを参考としつつ判断する。



以上が量刑判断の考え方で、以下からは指針の標準例に掲げられた主な非違行為と処分の内容を種類別に簡略化して、筆者の方で加筆・分類したものです。なお、免職は懲戒解雇と、停職は出勤停止と、戒告は譴責と同じとお考えください。


                                                                                                         
第2 標準例
 1 一般服務関係

  ●欠勤
   ア 正当な理由なく10日以内の間勤務を欠いた職員は、減給又は戒告とする。
   イ 正当な理由なく11日以上20日以内の間勤務を欠いた職員は、停職又は減給とする。
   ウ 正当な理由なく21日以上の間勤務を欠いた職員は、免職又は停職とする。

  ●遅刻・早退
    勤務時間の始め又は終わりに繰り返し勤務を欠いた職員は、戒告とする。
  
  ●休暇の虚偽申請
    病気休暇又は特別休暇について虚偽の申請をした職員は、減給又は戒告とする。
  
  ●勤務態度不良
    勤務時間中に職場を離脱して職務を怠り、公務の運営に支障を生じさせた職員は、減給又は戒告とする。
  
  ●職場内秩序を乱す行為
    ア 他の職員に対する暴行により職場の秩序を乱した職員は、停職又は減給とする。
    イ 他の職員に対する暴言により職場の秩序を乱した職員は、減給又は戒告とする。

  ●虚偽報告
    事実をねつ造して虚偽の報告を行った職員は、減給又は戒告とする。

  ●秘密漏えい
    職務上知ることのできた秘密を漏らし、公務の運営に重大な支障を生じさせた職員は、免職又は停職とする。

  ●兼業の承認等を得る手続の懈怠
    営利企業の役員等の職を兼ね、若しくは自ら営利企業を営むことの承認を得る手続又は報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員等を兼ね、その他事業若しくは    事務に従事することの許可を得る手続を怠り、これらの兼業を行った職員は、減給又は戒告とする。

  ●(セクシュアル・ハラスメント(他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動)
   ア 暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び若しくはわいせつ     な行為をした職員は、免職又は停職とする。
   イ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動(以下     「わいせつな言辞等の性的な言動」という。)を繰り返した職員は、停職又は減給とする。この場合においてわいせつな言辞等の性的な言動を執拗に繰り返したこ     とにより相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患したときは、当該職員は免職又は停職とする。
   ウ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞等の性的な言動を行った職員は、減給又は戒告とする。

 
 2.公金官物取扱い関係(公金であるため、民間人のそれより重いと思われる)

  ●横領
    公金又は官物を横領した職員は、免職とする。
  
  ●諸給与の違法支払・不適正受給
    故意に法令に違反して諸給与を不正に支給した職員及び故意に届出を怠り、又は虚偽の届出をするなどして諸給与を不正に受給した職員は、減給又は戒告とする。
 
  ●コンピュータの不適正使用
    職場のコンピュータをその職務に関連しない不適正な目的で使用し、公務の運営に支障を生じさせた職員は、減給又は戒告とする。
 

3.公務外非行関係 (企業外の私的行為にあたるもの)
 
  ●暴行・けんか
    暴行を加え、又はけんかをした職員が人を傷害するに至らなかったときは、減給又は戒告とする。

  ● 器物損壊
    故意に他人の物を損壊した職員は、減給又は戒告とする。
 
  ●窃盗・強盗
   ア 他人の財物を窃取した職員は、免職又は停職とする。
   イ 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した職員は、免職とする。

  ● 詐欺・恐喝
    人を欺いて財物を交付させ、又は人を恐喝して財物を交付させた職員は、免職又は停職とする。
 
  ● 麻薬・覚せい剤等の所持又は使用
    麻薬・覚せい剤等を所持又は使用した職員は、免職とする。

  ●酩酊による粗野な言動等
    酩酊して、公共の場所や乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をした職員は、減給又は戒告とする。

  ●痴漢行為
    公共の乗物等において痴漢行為をした職員は、停職又は減給とする。

 
4.飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係
 
  ●飲酒運転
   ア 酒酔い運転をした職員は、免職又は停職とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職とする。
   イ 酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職又は停職(事故後の救護を怠る等     の措置義務違反をした職員は、免職)とする。
   ウ 飲酒運転をした職員に対し、車両若しくは酒類を提供し、若しくは飲酒をすすめた職員又は職員の飲酒を知りながら当該職員が運転する車両に同乗した職員は、飲     酒運転をした職員に対する処分量定、当該飲酒運転への関与の程度等を考慮して、免職、停職、減給又は戒告とする。

  ●飲酒運転以外での交通事故(人身事故を伴うもの)
   ア 人を死亡させ、又は重篤な傷害を負わせた職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において措置義務違反をした職員は、免職又は停職とする。
   イ 人に傷害を負わせた職員は、減給又は戒告とする。この場合において措置義務違反をした職員は、停職又は減給とする。

  ●飲酒運転以外の交通法規違反
    著しい速度超過等の悪質な交通法規違反をした職員は、停職、減給又は戒告とする。この場合において物の損壊に係る交通事故を起こして措置義務違反をした職員は    、停職又は減給とする。

 
5.監督責任関係
 
  ●指導監督不適正
    部下職員が懲戒処分を受ける等した場合で、管理監督者としての指導監督に適正を欠いていた職員は、減給又は戒告とする。

  ●非行の隠ぺい、黙認
    部下職員の非違行為を知得したにもかかわらず、その事実を隠ぺいし、又は黙認した職員は、停職又は減給とする。


指針の詳細は、  http://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.htm



また、上記指針のほかに、労働基準監督署において解雇予告や予告手当の支払いを不要とする解雇予告除外認定を受ける際に、従業員の責めに帰すべき事由として認定する材料として、以下の通達があり、懲戒解雇事案で参考となります。

1. 会社内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
2. 賭博や職場の風紀、規律を乱すような行為により、他の従業員に悪影響を及ぼす場合
3. 採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
4. 他の事業へ転職した場合
5. 2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
6. 遅刻、欠勤が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合


また、以上の他に一般論として、正当な配転(職務変更、転勤、出向)命令違反も、懲戒解雇をもって望まざるを得ないでしょう。出勤停止程度の処分では、処分を受けた方が結果的に得になってしまうからです。

懲戒処分は慎重に行うべきことを理解して頂けましたでしょうか。特に懲戒解雇は慎重であるべきで、仮に懲戒解雇する場合でも、予備的に普通解雇の意思表示はしておいた方が良いでしょう。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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