~職業と倫理について考える~
●経営者として心に自分の倫理基準を持とう(H28.2月号)

社会保険労務士として多くの経営者と出会いお話ししている中で、倫理上、悩ましい場面に遭遇することがあります。例えば、会社の経営が苦しいときに法律はどこまで守るべきか、という命題に当るときなどがそうです。会社が潰れてしまっては元も子もありません。しかしだからといって、どんどん首切りして良いとか、社会保険料をごまかして良いということにはならないはずです。
こういったケースはまだ分かりやすいのですが、助成金を取り扱う場面で考えてみても悩ましいケースがあります。つまり受給したい経営者は、「これくらいのことは良いだろう」と都合よくルールを解釈して、結果的に不正に繋がることがあるからです。例えば「存在しない事実を作り出し」たり、「ルールを都合よく曲げる」などのことが起こりがちです。普段は普通の良い人のはずが、特定の場面では、悪い人になってしまうことがあるのです。
そもそも倫理とは一体、何でしょうか?

倫理とは「人として守り行うべき道。善悪・正邪の判断において普遍的な規準となるもの。道徳。モラル。(出典:デジタル大字源)」となっています。

そこに職業が付いて、職業倫理となると、「特定の職業に要請される倫理、または職業人に求められる倫理、などのことを幅広く指す表現。(出典:実用日本語表現辞典)」となっています。
倫理とは要するにひと言で言えば、「人の道に反しないこと」だと思うのですが、そこに職業が付くと、その倫理のハードルが更に上がるということなのかも知れません。そしてそのハードルは職業ごとに異なるものであるはずです。ですからその職業に就く経営者は、その職に求められる職業倫理を心の中にしっかりと持っていないと、間違った経営を行ってしまうのかも知れません。

偽装が横行するのもそういったことなのだと思うのです。
ただ、我々は聖人君子でもなければ、裁判官でもありません。経営が苦しいとき、これをやれば儲かるとの誘惑に駆られるとき、どうしても倫理を見失うことになり兼ねません。そんな時、大切なのは如何に自分の心の中に、自分なりの倫理基準を持っているか、心の拠り所があるかに懸かっていると思うのです。
信号無視は違法です。誰でも知っています。でも、車の少ない道路、狭い横断歩道ではついつい、赤でも行ってしまう!、こんな場面はよくあることです。
ただその横断歩道の向こう側に、小さな子がお母さんに手を引かれて、ちゃんと待っている!、この前をすっと横切るのは何か逡巡する思いに駆られる、そんな経験はないでしょうか?この逡巡はどこから来ているのでしょうか?

恐らく、人は誰でも子どもの前では、格好の悪いことはできない!、との思いがあるからではないでしょうか。それが他人の子どもであったとしてもです。

そうすると、経営が苦しいときとか、これをやれば儲かるとの誘惑に駆られたときで、今行われていること又はやろうとしていることに対して、小さな子が「これ何?」「何で?」と尋ねられたとしたら、きちんと答えられるしょうか?
もしそこで逡巡する気持ちが生じたら、それはきっとやましいことなのです。であれば、それはするべきではないことなのです。きちんと説明できることであれば、信念を持って行えば良いでしょう。
こういったことも自分の心の中の倫理基準です。心の拠り所です。
特に人の上に立つ経営者は、その職業において、通常の人々よりも一段高い、倫理のハードルを持つ必要があるのかも知れません。全うな経営を行うためにも、経営者として自分を見失わないためにも、心に自分の倫理基準を持つようにしたいものです。

小規模企業の賃金制度、管理職研修を得意としています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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