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●迫りくる同一労働、同一賃金!!その対策を考える  その1(2019.8月号)

いわゆる同一労働同一賃金を規定した、改正「パート・有期雇用労働者法」の施行が迫ってきています。大企業では来年2020年の4月から、中小企業でも再来年の2021年4月からスタートとなります。大企業と中小企業の区分は以下の通りで、資本金か労働者数のどちらかが以下の基準を下回れば中小企業となります。

             資本金         労働者数(企業単位)

小売業        5,000万円以下  または   50人以下
サービス業      5,000万円以下  または  100人以下
卸売業        1億円以下    または  100人以下
その他の業種     3億円以下    または  300人以下
(製造・建設・運輸など)  


実は全く新しい法律ができるのではなく、従来からあるパート労働法を修正して施行されるのですが、パートタイマーか有期契約労働者を雇用する企業は、規模を問わず非常に大きな影響が及ぶこととなる上に、方針の決定、検証や制度設計その他の事前準備にかなりの時間を要することになるため、しばらくの間シリーズにてこの問題を考えて行きたいと思います。


少し退屈かもしれませんが、まず法律条文の該当部分を確認しておきましょう。



■根拠法の確認

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(略して パート・有期雇用労働者法)

(不合理な待遇の禁止)

第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。


(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)

第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。


(賃金)

第十条 事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。次条第二項及び第十二条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。※1)を決定するように努めるものとする。


(教育訓練)

第十一条 事業主は、通常の労働者に対して実施する教育訓練であって、当該通常の労働者が従事する職務の遂行に必要な能力を付与するためのものについては、職務内容同一短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。以下この項において同じ。)が既に当該職務に必要な能力を有している場合その他の厚生労働省令で定める場合を除き、職務内容同一短時間・有期雇用労働者に対しても、これを実施しなければならない。


2 事業主は、前項に定めるもののほか、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力及び経験その他の就業の実態に関する事項に応じ、当該短時間・有期雇用労働者に対して教育訓練を実施するように努めるものとする。


(福利厚生施設)

第十二条 事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設であって、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令で定めるもの(※2)については、その雇用する短時間・有期雇用労働者に対しても、利用の機会を与えなければならない。

※1 通勤手当・退職手当・家族手当・住宅手当など
※2 給食施設・休憩室・更衣室のこと


上記において、特に大事なのが、第8条及び第9条となります。次回以降詳述します。



■最低押さえておくべきこと

(1)誰と誰を比較して同一労働同一賃金でなければならないのか

この法律において比較の対象となるのは、

正社員VS所定労働時間の短い労働者(1時間でも短ければ対象となる(いわゆるパートのこと)または、
正社員VS有期雇用労働者(フルタイム有期労働者を含む)です。

場合によっては無期フルタイムパートVSパート・有期雇用労働者もあり得ます。

従って「正社員と正社員」、「パートとパート」、「有期雇用労働者と有期雇用労働者」、「パートと有期雇用労働者」、「正社員と無期のフルタイムパート」の間に待遇の相違があったとしても、この法律では関係がありません。



(2)一つ一つの待遇に差別または不合理がないか検討する

日を改めて述べますが、要するに正社員の待遇とパート・有期雇用労働者の待遇を全体的にみて、ふわっと判断するのではなく、個々の待遇ごとに判断されるということです。例えば、10ある処遇のうち、9まではパート・有期雇用労働者も正社員と同じ待遇か、或いは上回っていたとしても、残りの1つの待遇が差別的と判断されれば、是正を迫られることとなるのです。



(3)賃金だけでなくあらゆる待遇が対象となる

同一労働同一賃金の俗称から、賃金だけが規制の対象であるとの勘違いを起こし易いのですが、そうではありません。賃金だけでなく、福利厚生、教育訓練、休暇、安全衛生、解雇などあらゆる待遇が対象となるものです。また賃金も月例賃金や基本給だけでなく、手当・賞与・退職金或いは福利厚生的な慶弔金や報奨金なども対象となります。



(4)均等待遇と均衡待遇という概念があること

これは一般の方々には非常に分かりにくい概念です。これも次回以降で詳述しますが、ごくごく簡単に申しますと、

均等待遇とは・・・・ある要素が正社員とパート・有期雇用労働者で同じなら、待遇も同じにしなければならない(パート・有期雇用労働者法第9条)

均衡待遇とは・・・・ある要素に違いがある場合、正社員とパート・有期雇用労働者の待遇に相違があっても良いが、不合理な差異であってはいけない(パート・有期雇用労働者法第8条)


この「ある要素」が対策を立案する上において非常に重要なものになるのですが、次回以降で詳述したいと思います。



(5)使用者と労働者間の民事上の問題であり、刑事罰は課されないこと

違反に対しては行政指導の対象とはなっても、労働基準法や労働安全衛生法にあるような刑事罰は用意されておらず、労働基準監督署は管轄外となり、同じ労働局内にある雇用環境均等部の管轄となります。この問題は、対行政というよりも、会社とパート・有期雇用労働者の間でトラブル防止という民事上の問題の方が大きいのです。


(6)損害賠償の根拠となるが、補充効はないこと

パート・有期雇用労働者法第8条の均衡待遇に違反したとして司法判断されたときは、民事上の損害賠償請求の根拠とされます。但し将来に向かって契約内容の修正を直立的に迫られる、いわゆる補充的効力はないとされています。



(7)同一労働同一賃金も、働き方改革の真の目的である労働生産性の向上に関係している

この同一労働同一賃金も、働き方改革関連法の中の一部です。そしてかねてより申し上げておりますが、この真の目的は生産性革命を起こすことであり、単なる労務問題ではなく経営課題なのです。ここを見誤っては、経営者のコミットメントが脆弱になってしまい兼ねません。繰り返し申し上げますが、生産性の高い企業を成長のエンジンとして残し、ついて行けない企業を退場させるもので、生き残りをかけた経営問題なのです。



以下次号。


小規模企業の賃金制度、管理職研修を得意としています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com

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19年08月23日 | Category: General
Posted by: nishimura
●2020.4月スタート 中小企業にも迫る、時間外労働の上限規制(2019.7月号)

2019年は、生産性革命を命題とする働き方改革がスタートした年となりました。中小企業では、以下のスケジュールで順次新しいルールが始まることとなり、生き残りの為にも対応が迫られることになります。

(1)年5日の有給休暇の取得を企業に義務付け(2019.4施行)
(2)労働時間の客観的把握の義務付け(2019.4施行)
(3)フレックスタイム制の拡充(2019.4施行)
(4)高度プロフェッショナル制度の創設(2019.4施行)
(5)産業医・産業保健機能の強化(2019.4施行)
(6)勤務間インターバル制度の促進(2019.4施行 努力義務)
(7)残業時間の上限規制(2020.4施行)
(8)不合理な待遇差の解消(2021.4施行)
(9)月60時間超の残業の割増賃金率引上げ(2023.4施行)


独断ですが上記のうち、(3)のフレックスタイム制の拡充、(4)の高度プロフェッショナル制度の創設、(5)の産業医・産業保健機能の強化は中小企業ではほとんど関係がないため、それ以外の項目で対応が必要ということとなり、(1)の年5日の有給休暇に関しては、すでにこのメルマガでも触れ、対応中の企業も多いかことかと思います。


今後、順次その他のテーマにつき対応策を検討して参りたいと思いますが、今回取り上げるのは(7)の残業時間の上限規制です。
簡単に言うと、今まで青天井で残業をさせることが出来ましたが、来年の4月からは残業に罰則付きで上限が設けられるということです。

1.まずこれまでのルールを確認しましょう。


そもそも労働基準法では、原則として時間外労働を罰則付きで禁止しています。

(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

罰則:6か月以下の懲役または30万円以下の罰金


よく、今回の改正が罰則付きとして説明されますが、もともと残業は禁止されており、これに反すると罰則があるのです。


但しこの罰則が、いわゆる36協定を締結することで、刑事免責される効果があります。

(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条(中略)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。


そしてこの36協定に記載できる残業時間が、今までは無制限に記載することが可能だったわけです(ただ限度基準が示されていたので、この基準の範囲内で記載するよう行政指導は行われていた)。


2.来年4月以降はどうなるのか

a.残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間(1年変形制の場合は月42時間、年320時間)
 月45時間は、おおよそ1日当たり2時間程度の残業に相当

b.臨時的な特別の事情があって年6回まで特別条項を使う場合でも、
・年720時間以内
・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
・月100時間未満(休日労働を含む)  を超えることは不可。
 ※月80時間は、おおよそ1日当たり4時間程度の残業に相当


ただこの理屈は非常に複雑で、これを個人ごとに管理するには、よっぽど高価な勤怠管理システムを導入しない限り、現実的には不可能です。従って、中小企業で残業させることができるリミットは、以下のように考えるべきです。


1ヶ月42時間が6回まで(1日2時間以内) 及び   1ヶ月78時間が6回まで(1日4時間以内)  

(42時間×6回)+(78時間×6回)=年間上限720時間

つまり年6回は毎月42時間がリミット、あとの年6回は毎月78時間がリミットとして管理します。

ところで、当面はこの数字を意識して管理するとしても、2023年4月からは60時間超の残業代の割増率が25%から倍の50%に跳ね上がります。

しかも現在、賃金の請求時効を2年から5年に延ばすことが検討されています。そうすると、60時間超の残業代コストはかなり上昇し、不払い額がある場合は相当膨らむリスクも高くなります。

そのように考えると、前記の78時間は60時間と読み替えて(年間では612時間)、今から管理して行った方が良いと考えています。

月42時間を6回まで、月60時間を6回まで。

これからの生き残りをかけた時間管理です。


(注)自動車運転の業務、医師、建設事業は5年間の猶予措置があります。

小規模企業の賃金制度、管理職研修を得意としています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
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19年08月23日 | Category: General
Posted by: nishimura