●労務は感情、労務は心理学   パワハラ問題 その2   (H24.11月号)
~できるだけ不満のたまらない企業文化(社風)醸成のために~


前回は人格攻撃にならないために、「人・事(じんじ)を分けて考える」「あなたメッセージをしない」「従業員にも家族がいることを思い出す」をお話しました。
今回は前回に引き続き、パワハラとの関係で、企業文化について考える第2回目です。


4.簡単にできるコミュニケーション方法 「忙」と「認」と「ど付き質問」


上司と部下の良好なコミュニケーション手法を解説する書籍や講座はたくさんあります。私も仕事上、または自分も部下を管理する立場として、そのような勉強を人並み以上にしている方だと思います。でも勉強したことを実践しようとすると、実際は中々難しい。

そこで意識すればできる非常に簡単なコミュニケーションをご紹介したいと思います。


ア) 「忙しい」は禁句

「忙しい」という言葉は非常に便利です。何が便利かと言うと、ただ一言、「忙しいっ!」とやるだけで、相手を簡単にはねつけることができます。便利なだけに濫用し易い言葉です。
でも、何かを聞きに行ったとき、「忙しいっ!」とやられると、結構、嫌な気持ちになりませんか?居場所がなくなるというか、立場がないというか、軽んじられたというか・・・・・・。
もうあの人にはあまり近づきたくない、出来たら避けたいと思わせる効果はありますよね。

「忙しい」という文字を良く見ると、心を亡うと書いて、「忙」なのです。得てして、「忙しいっ!」とやってしまう姿は、周りから見ればイヤーなオーラを出して、心を亡くした姿に映ることでしょう。
できたら職場では避けたい言葉の一つです。



イ)相手を「認める」とは?

自分の人格が軽んじられたと思うとき、自分は認められていないと感じています。しかし承認欲求は誰でもい持っているのです。

相手を認めるには、褒め言葉をあたかもシャワーのように、浴びせ続けなければならない誤解をしてはいないでしょうか?
でも実際はそうではなく、相手の話を聴くだけで結構認められたという実感を持つものです。

「認」という字、ごんべんに忍と書いて、認めると読ませています。つまり言葉を忍ぶということが相手を認めることだというのです。何も上手く褒めなければ成らないことはない。ただ上司が言葉を慎むだけで、承認したことになるのです。饒舌に、冗長に成らないように、したいものです。



ウ)「ど」つき質問のすすめ

しかしそうは言っても、ただ言葉を忍ぶだけでは、不充分。どうしても言葉も必要なのは当然です。でも上司があまり饒舌になってはいけない。では、どうするか?

「どう思う?」「どうしたらいい?」「どうしたいんだ?」と聞いてみましょう。「ど」の付く質問、ただそれだけです。

前回のあなたメッセージでも少し触れましたが、従業員の心の矢印を自分の方向へ向けさせなければなりません。ただ一方的に、上司から指揮命令の矢印を向けるだけでなく、「ど」つき質問を多用する社内文化を醸成しましょう。

部下はこの会社で「自分がいる」という存在感を今まで以上に持つことができるはずです。



2.労務は1対1の関係  上司は自分の存在の大きさを自覚しよう


上司の存在は自分が思っている以上に、部下から大きな存在で見られていることを自覚しましょう。何気ない一言や態度でも、従業員の心の中には意外と蓄積されていることが多いのです。その理由は簡単。上司から部下の存在は5分の1、10分の1の存在かも知れませんが、部下から見た場合、上司は一人しかいません。つまり部下から見ると、常に1対1の関係なのです。それを忘れてはいけません。



3.それでも指導、注意、警告を恐れるな


しかし出来が悪いと見たならば、パワーを行使することを躊躇してはいけません。よっぽどフラットな組織機構を目指していない限り、組織は縦の関係で規律が保たれている側面があり、社長又はその権限の一部を委譲された上司は、本来的にパワーを有しているのです。要はその行使の仕方の問題です。

また日本の労働法制は採用に甘く、解雇に異常に厳しい法制です。従って、能力不足だとか勤務態度不良といっても、簡単に解雇することはできません。日頃から如何に指導、注意、警告をして来たかが問われ、漫然とやり過ごしていると会社の教育がなっていないとされて解雇は無効となってしまうのです。問題社員ほど、繰り返し、厳しく指導せざるを得ないのです。

そして他の問題ない従業員から見ても、問題社員を放置しておくことがかえって組織風土に悪影響を与えることすら懸念されます。

従って、人格攻撃をせず、コミュニケーションに意を尽くして頂ければ、パワーの行使はむしろ望ましいことなので、臆することなく、適切にパワーを行使しましょう。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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