●2018年4月からいよいよ発生! あと半年!!無期転換権、迫る!(H29.11月号)


有期契約労働者の「無期転換権」につきましては、本年1月号において触れました。今回は本制度の解説は割愛し、あと半年と迫った中で、企業が対応を検討すべき具体的事項に絞ってお話しいたします。

無期転換の概要をご存知になりたい方は、1月号を御覧頂くか、HPで「無期転換ルール」と検索して「無期転換ルール 厚生労働省」http://muki.mhlw.go.jp/

を御覧ください。



■まず、会社の基本方針を明確にする

これは「無期転換」を、
(1)会社として是として積極的に取り込んでゆくのか、
(2)やはり無期は困る、有期で使い続けたい、と考えるのか
の選択ということです。

5年前にこの制度が出来たときは、景気動向もかなり低調だったため、どちらかといえば、雇用調整がやりにくくなる「無期転換、それは困るな・・・・」という感覚の企業が多かったように感じます。
しかし、現在では空前の人手不足時代の到来ということもあり、中堅以上の企業では人材確保及び引き留め策として、積極的に制度化して活用して行こうという動きが見られます。

まず、企業としてどちらのスタンスを採るのか、によって施策は自ずと変わってくるということです。


その上で、この紙面では、後者の感覚、つまり「無期転換、それは困るな・・・・」という感覚がまだまだ多い中小企業に絞って、具体策を検討してみたいと思います。



1.次の更新時に更新の有無をはっきりさせる

平成25年4月1日段階で在籍している有期労働者の契約更新がこれからあり、その期間の終期が3月31日までにある場合、次の更新時が「5年を超えない」最後の更新時期となります(※但し例外あり 巻末に記載)。つまり5年以内で収まる最後であり、その次の更新では既に5年を超えてしまうため、「無期転換権」が発生します。

企業の対応方法として有期労働者で使い続けたいというのであれば、来年3月までの更新時に、「本契約をもって最終とする」として更新する必要があります。



2.5年を超える契約はしないことを明示する

今後、有期契約を締結するときには、「通算5年を超えて更新しない」という文言を入れた雇用契約書を交わしておく必要があります。この場合、期限管理をきちんとして、何人も例外なく5年で雇止めする厳格なルール運用が求められます。
うっかり、5年を超えてしまう、或いは人により延長を認めることは望ましくありません。



3.事後放棄

「無期転換権」を行使させないために、事前に放棄を迫ることは無効とされています。仮に自由な意思表示で放棄した場合でも強行法規の性格上、事前放棄は不可能と考えます。

しかし、事後放棄については可能となる余地があります。事後放棄とは、一旦5年超となって無期転換権が発生した後に、自由な意思表示で労働者自らが放棄するというものです。

この場合、私見として、放棄に対しては有利な労働条件を用意する方が望ましく、
A 放棄した場合のメリットとデメリット
B 放棄しない場合のメリットとデメリット
をきちんと説明して、放棄を強要せず、充分な考える時間を設けた上で、自発的に合意書が取れるのであれば可能と考えます。例えば放棄した場合は、雇止めもあり得るが、メリットとして賃金をアップするとか、希望する職務や勤務場所から動かさない特約を結ぶことなどが考えられます。



4.法人間の転籍

無期転換権は同一の使用者(つまり企業単位)で発生するものです。言い換えるなら、事業主体(つまり会社)が変われば、法文上は5年を超えても通算されないことになります。つまりA会社で5年勤務のあと、B会社で有期契約を結んでも、A会社の期間は通算されないのです。但し、この場合、転籍に本人の同意があり、かつB会社に経営の実態が必要です(ペーパーカンパニーはダメ)。

但し、無期転換権を免れる目的で、このような雇用管理をした場合、司法がどのように判断するかは現時点では不明です。



5.無期転換した後の労働条件

上記1から4は、無期転換権を制御する対策ですが、何らかの事情で無期転換者が発生した場合に備えた対策も必要です。                                
(1)無期転換者の就業規則はどうなるのか

有期契約であることを前提に就業規則を適用している場合は注意を要します。例えば、「この規則は有期契約者に適用する」とか、正社員の定義が「無期で雇用する社員とする」のような文言となっている場合です。前者の場合ですと、有期で無くなる無期転換者は一体どの規程の適用を受けるのかが不明です。

後者の場合では、無期転換者が正社員として処遇される可能性が出て来てしまいます。退職金規程が無期転換者にも適用になるなどの影響が広がることもあり得るでしょう。

無期転換者は、原則、いままでの就業規則の適用を受けるという文言の見直しが必要です。就業規則の「社員の定義」、「適用範囲」の条項のチェックが不可欠です。


(2)定年は適用されるのか

今まで有期社員であったときは、定年を意識する必要はありませんでした。しかし無期社員になっても正社員になるわけではありませんから、正社員の定年制はそのまま適用されません。無期社員にも新たに定年制を設ける必要があります。


(3) 定年退職者も無期転換権があることになる

無期転換権は定年退職して継続雇用されている社員にも適用があります。つまり、一旦定年退職で有期社員になっている方も、5年を超えれば無期転換があり得るのです。しかも高齢者雇用安定法により、現在は原則65歳まで継続される仕組みとなっています。65歳できちんと雇止めした場合は別ですが、65歳を超えて継続すると5年超となり、無期に戻る可能性があるのです。

これを回避するためには、68歳第二定年や、70歳契約期間の上限という規定を新設しておく必要があります。

但し、平成28年4月より定年退職者に限り、無期転換権を発生させないことが可能な有期契約特別措置法ができており、認定を受けた企業は除外されます。


(4)別段の定め

無期転換した場合でも、契約期間がなくなるだけで、その他の労働条件は同一のなるのが原則です。
しかし、就業規則において「別段の定め」をした場合は、従来と異なる労働条件にすることも可能とされています。具体的には以下のようなケースが考えられます。


A.有期であったことで優遇されていた条件をどう考えるか


有期契約であることから、特別に優遇されている条件(慣行)がある場合は、それをどうするかを検討する必要があります。例えば、有期社員は地域限定採用とか、職務を限定しているとか、時間有給を認めているような場合です。こういった場合に、無期になることで、他の無期社員と同様に配転や職務変更に応じてもらうこととするのか、といったようなことです。

そうであるなら、無期転換後には有期であることで享受していた有利な条件がなくなることを規定化しておくべきです。



B.無期後の新たな労働条件の設定

これは有期のときと、無期後の労働条件に明確な違いをらかじめ規定しておく場合があるということです。
具体例で申しますと、

   有期時代                    無期転換後

a. 週3日 18時間の勤務(社会保険なし)  →   週5日 30時間の勤務(社会保険加入)
b. 勤務地限定                → 勤務場所の変更(転勤)あり
c. ショップ販売員(限定)          →   事務社員や倉庫業務への変更あり



C.定期的に労働条件の変更を行いたい場合

有期契約のときには、更新時に賃金や労働時間など、期間以外の労働条件を見直していたことがあると思います。このような場合、無期転換後は、退職までずっと無期転換時の労働条件をそのまま継続しなければならないことはありません。つまり、無期ですので期間の話はできませんが、その他の労働条件を従来通り定期的に見直すことは可能です。

但し、これをする場合は、就業規則に定期的に見直すことを定めた規定を設ける必要があります。



D. 無期転換者は制度上は新規雇用として規定する

議論のあるところですが、無期転換者は今までの契約の延長線上で労働条件を変更したと考えるのではなく、新たな労働契約(新規雇用)をしたとして明示しておくことが望ましいと考えています。

これは労働条件を変更した場合に、労働契約法のどの条文が適用されるかという、法学的に難しい理論ですので割愛しますが、新たな雇用関係が始まると理解すべきです。但し、引き継がれない労働条件と引き継ぐ労働条件を明確にしておく必要があります。例えば有給休暇の勤続年数は引き継ぎ、通算しなければなりません


以上、これら別段の定めをする場合には、無期転換者が発生する前に、就業規則を変更しておかなければなりません。発生後でも変更が出来ないことはありませんが、法的にハードルが高くなってしまうからです。




また一般的には少ないと思われますが、無期転換は来年の4月以降でないと発生しないとも限らないケースがあります。それは、平成25年に在籍している有期労働者で、契約期間が一定でなく、バラバラであったり途中で変更されているケースです。

例えば、平成25年4月1日に6ヶ月の有期契約を結び、その後1年契約に変更している場合、平成29年の10月1日時点の更新において無期転換権が発生していることになります。

何故なら、5年を歴日数で超えるのは来年の4月1日以降ですが、この10月1日の更新で必ず4月1日を超えて、つまり5年を超えることが確実な契約を結んでいるからです。つまり5年を超えた時から無期転換権が生じるのではなく、あくまでも5年を超える契約の始期から権利が生じることに注意しなければなりません。

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

小規模企業の賃金制度、管理職研修を得意としています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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