●「天の一物を大切に」・松下幸之助(松下電器の創業者)
不思議なもので、人間というものは悪いことばかりではないし、また、いいことばかりでもない。いい反面には悪いこともついて回る。
だからおのおのの段階で、自分の為すべきことを、為して行くというような、物の考え方をお互いに持たなければならない。
とにかく人間の感情というものは、うまく行けば有頂天になるが、悪くなったら悲観する。起伏が非常に激しい。これは人間の一つの弱い面だが、それをなるべく少なくし、いつの場合でも淡々とやる、というのが大切である。
何も心の修行というような大げさに考えなくても、信念をもって、希望を失わないでやっていくことが大切である。
このことを言い換えれば、「天は二物を与えず」というが、逆に、一物は与えてくれるということ。その与えられた一つの物を育てあげることが大切である。
松下さんは、小学校三年までしか通学をしていない。そしてある自転車店に勤めることになった。その勤めぶりは、とにかく「サービス精神」というものを徹底して身につけた。
たとえば、来客があり、品物を売った。ところが玄関を出たところで転んで折角買った物を破損してしまった。「この場合、売った人間はどうすべきか」というのが松下さんの出題。
答えは、「新品を差し上げてお帰しする」である。
とにかく94歳で大往生なさるまで、大活躍をなさった。