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中小企業で人材が育ちにくい理由を考える(H21.7月号の記事)
~競争原理・上昇志向・新卒・ライバルの欠如  管理職らしくない管理職 社長自身の問題~

 多くの中小企業経営者の方々とお話していますと、とかく人材が育たないと嘆かれることがよくあります。その原因は色々あるとは思いますが、私は中小企業に構造的な問題として、以下の点を指摘することが出来ると考えています。

1.競争原理(ライバル)の欠如

 中小企業は人事部の整備された一定規模以上の企業のような教育指導体制が確立されていないのが普通であり、直接現場で先輩から指導を受けるいわゆるOJT教育が主体となっています。そしてその指導を受ける新米従業員は中途採用がほとんどであり、また一人採用が多いのも事実です。つまり新卒入社組のような「同期」という存在がおらず、社内にライバルがいないため、適度な競争原理が働かないことが挙げられます。年齢間格差があればなおさらで、25歳の新米と50歳の職人ではライバルになりません。もちろん和気藹々と家族的に仲良くするのも大切なのですが、こと人が伸びるという観点から考えると、常に心に意識できるライバルの存在があるかないかで大きな相違があると思うのです。「あいつには負けたくない」とか「こういうときあいつならどうするだろう」とか、心にライバルを思い浮かべるとき、人間の怠惰な慣性はそれがいないときに比べて大きく後退するものです。恋をすると綺麗になる法則にも似ているでしょうか?心にいい意味で気になる存在が社内にいないことが、今一歩の努力を引き出せない原因です。つまり新卒複数採用を定期的に続けるとか、仮想ライバルの存在をイメージさせるなどの仕掛けが必要なのです。

2.上昇志向の欠如

 中小企業で働く従業員は、その会社で将来自分がどのような姿になっているかを想像できているでしょうか?もちろん良いイメージです。また「あの人のようになりたい」というような憧れの上司や先輩はいるでしょうか?ずっとこのままの状態が続くと諦めの境地で思われていないでしょうか?
 多くの中小企業では人事制度が整備されていないため、将来に対する明るい見通しが「見える化」できていないことが多いのです。今の自分の仕事はずっと今のままか、もっとレベルアップしてゆけるのか、そのためには何が求めれているのか、それにともなって待遇やポジションはどのようになってゆくのか?
 今の日本の社会状況と同じで、将来不安があるうちは今をアクティブに生きようとはしません。むしろ今あるものを出し惜しんだり、将来のために今ちょっと我慢して努力するとう気持ちが芽生えないでしょう。そうならないためには明るい未来を提示し、上昇志向を引き出す必要があります。もちろん全員が上昇できるものではありませんが、その意欲や力が潜在的にあるにもかかわらず、その環境が整備されていないためにくすぶっている人があるとすれば、大きな損失です。将来に対するキャリアプランを提示できる人事制度の整備などを仕掛けてゆく必要があります。

3.管理職らしくない管理職

 人を教育指導するのも管理職の役割の一つです。人が育つかどうかは、その上に立つ人の存在に大きく左右されます。中小企業においても役職持ちの方はたくさんいますが、その中で課長とか部長とかが、どういうことをする人かを右脳でイメージできている人は果たしてどれだけいるでしょうか?小さな会社を転職してきた従業員はその履歴において、自分自身が管理職らしい管理職と出会っていないためか、なかなか管理職が何たるものかをイメージしづらいようです。いくら理屈で説明しても、頭の中にビジュアル化されたイメージがないため、ピンと来ません。管理職に対するイメージ戦略が必要です。できれば一定期間出向して、管理職の手本となる人に就くのがいいのですが、現実的ではありません。現実的でお手軽な仕掛けとしては、雇用能力開発機構など公共機関が貸し出してくれる無償の管理職に関するビデオを借りてきて、イメージを持ってもらうのも一つの方法でしょう(大阪では梅田の新阪急ビル8Fにある)。また役職は名誉職でも既得権でもなく、特別の責任と役割があることを認識してもらう役割制度を構築して、仕掛けてゆくことも必要です。


4.人を育てることに真剣に向き合っていない社長自身

 社長が従業員の人生に真剣に向き合っているでしょうか?従業員はあなたの会社で人生の多くの時間を費やしているのです。「自分の会社で成長して欲しい」、「世間並みの良い生活をして欲しい」と願っているでしょうか?もしそうならその気持ちは敏感に相手に伝わります。言葉や表情や仕草や具体的行動を通じて。社長から見れば目の前の従業員は何十分の一の存在でも、相手からは1対1の大きな存在です。社長が思う以上に、従業員は社長に対して思いを抱きます。もっと真剣に向き合ってください。そうすれば自ずと人の心を豊かにする、「承認」「笑顔」「感謝」が出ます。また厳しいことを言う場面でも感情に任せて「怒る」のとは違い、愛のある「叱る」行動になります。
 経営者には二つの大義名分があります。一つはお客さんを幸せにすること、もう一つは自分のところの従業員を幸せにすること。 人様の人間観に口を挟むつもりは毛頭ありませんが、今一度、真剣に向き合っているかを自問自答してみるのも大切なことではないでしょうか。

 これらは私自身が社労士として独立する前10年間に300人以上の企業から10人未満の零細企業まで普通のサラリーマンとして数社の転職歴があり、また開業後多くの中小企業の労務管理をお手伝いしている中で、感じている実感なのです。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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10年03月25日 | Category: General
Posted by: nishimura
中小企業緊急雇用安定助成金にはデメリットもあることを理解しよう(H21.6月号の記事)

 本年に入りましてから、製造業を中心に「中小企業緊急雇用安定助成金」の申請が激増しております。この助成金はいわゆる構造的不況等により、生産量や売上高が一定割合で減少し、従業員を一時帰休させる必要がある場合に、その間の休業手当を助成するもので、このメルマガでも2月号でご紹介しております。この助成金の申請ラッシュは今のところ収まる見込みはなく、むしろますます増える傾向にあります。
 もちろんこの助成金を利用することで、整理解雇を行わずに、事業継続が可能になるなら、それはそれで大いにメリットになることなのですが、ここまでの経過を見ておりますと、一部に懸念される傾向があることも分かってきました。現在ご利用中の企業も今後利用を検討されている企業も、以下のようなデメリットが生じる可能性があることを、ご理解いただければと思います。

 デメリットその1
 この助成金は、従業員を休業させてその間に休業手当を支払うものですが、基本的にその休業手当は休業1日に対し、平均賃金1日あたりの金額の60%以上を支払う必要があります。そして多くの中小企業は60%から80%程度で支給していることが多いのですが、いずれにしても従業員の給与は通常の給与額から減額されることになります。また現在は残業もほとんど行われていない現状から、その手取り額は相当程度下がるのです。つまり、会社には助成金が出ますが、従業員の給料は下がったままなのです。それが1,2ヶ月のことならまだ我慢も出来るかも知れませんが、相当期間経過した場合、モチベーションを維持できるかが心配です。人間というのは一旦獲得した収入の範囲で生活するリズムがついていますから、それがいきなり数万円減額されると、何かを切り詰めて生活する苦痛を伴います。毎日ビール1本飲めたものが、2日に1本になるように、ささになことでも生活レベルを落とすのはつらいものなのです。

 デメリットその2
 上記1と逆のケースもあります。つまり、100%補償しない限り確かに収入は減るのですが、一方で休んでいても給与補償される状態が続くことになります。世の中には額に汗して働いて、その労働対価として給料を受け取りたいという、健全な労働価値観をお持ちの方ばかりとは限りません。休んでいても給料がもらえるとなれば、またそれが慣性となる傾向が出てくるのです。休んで100%支給ならなおならです。よくあるケースですが、例えば腰痛や腱鞘炎で労災の休業請求をしていますと、いつまでも痛い痛いといって医師に証明を記載してもらい、働けるにもかかわらすいつまでも休業する従業員がいます。これと同様なことがおこり、働くモラルを下げる可能性があるということなのです。

 デメリットその3
 助成金は一種の麻薬だと思っています。これは経営者に見られる傾向なのですが、一旦助成金の甘美な味に満たされると、その後も助成金に依存しようとする経営姿勢が起こりやすいということなのです。確かに今回のように非常事態の場合は仕方ありませんし、その他の助成金でもせっかく政府が予算をつけて用意してくれている経済雇用対策を、正当に利用することを全否定しません。もともとこれらの原資には毎年経営者が収めている雇用保険料の中に、財源として組み込まれているものなのですから。しかし助成金はあくまでも不労収入です。上記2で延べた労働者が不労収入に頼る傾向が、経営者にも現れるのです。また助成金を受給するには当然その支給要件を満たす経営が必要なのですが、ひとたび甘美な収入が目の前に現れると、普段は良い経営者のはずが、品格を落とした経営者になってしまうことがあるのです。

 デメリットその4
 この助成金の対象になる休業者は基本的に雇用保険の被保険者です。しかし実際の現場では、雇用保険加入者だけとは限りません。しかし会社を休業にする場合、当然にこれらの被保険者でない人も、休業を検討することになりますが、休業手当の支払い義務はあっても、助成金の対象にはなりません。完全に持ち出しになるということです。また中小企業の場合、一定の重要人物には仕事の関係上、休業されられないことがあり、必然的にその他の軽易な業務に従事している人などに休業が偏ることがあります。つまり普通に働いて給料を得る人と、休んで給料を得る人が混在することになり、ここに軋轢が生じる素地があるのです。

 私は一刻も早く、こんな助成金を利用しなくてよいまともな社会が戻ってくることを節に希望しています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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10年03月25日 | Category: General
Posted by: nishimura
別れ際を大切にしよう~特に会社都合の場合~(H21.5月号の記事)

 ここ近年、労使紛争が激増しています。不幸にして労働組合に加入されたり、訴訟沙汰になったり深刻なケースに発展することも少なくありません。中にはやくざまがいの恫喝をもって、威圧的に迫ってくることすらあり、その度に「もう人を使うのが怖くなる」という心情を吐露される経営者もおられます。
 本当に人を使うのが難しい時代になりました。でも人を使わずして、経営を行ってゆくことはできません。どうしたらもう少しスムーズな労使関係が築けるようになり、100%紛争を回避することは不可能だとしても、その確率を減らすことができないものでしょうか。
 私がこの問題を考えるとき、大きな視点では①如何に不良社員の入社を水際で防ぐか、②今いる社員に不満が鬱積しない労務管理を如何に行うか、にかかっていると思うのです。それには以下3つのポイントがあると考えています。そのポイントとは、
1.経営者も労働法に無頓着ではいられないこと(ある程度労働法を知る必要がある)
2.人の感情や心理に配慮した人間関係を心がけること(場合によっては演じる役者のセンスがいる)
3.おざなりにしている手続きや仕組みをきちんと整備すること(特に雇い入れのルールを曖昧にしない)ということです。以下それぞれ解説します。

 とここまでは、前々回3月号の冒頭記事であり、上記1,2のポイント解説は既に述べました。3つ目のポイントだけ、次回以降の宿題になっておりましたので、今回はその続きです。やはり一番の要諦は採用してはいけない人を如何に的確に水際で防ぐかをシステム化することですが、この採用事務に関してはかつても度々記載してきましたのでこの項では省略します。
 また入社後の労務管理で、モチベーションを喚起・継続させる人事制度と心理的報酬が欠かせないことも言うまでも有りません。心理的報酬に関してはここ最近、中心的課題として取り上げてきたところです。人事制度に関しては、また機会を見てお話します。今回は労務管理の最後の部分、離職についてです。これを大きく分類すると以下の通りとなります。
1.辞職(本人からの退職の意思表示) 2.自然消滅(勝手に来なくなる) 3.死亡 4.定年 5.期間満了 6.合意解約(会社からの退職勧奨が多い) 7.解雇(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇)

 この中で特に5から7における別れ際が大切です。といいますのも、労働関係のトラブル事案は私の経験上も公的統計上も、この手の離職をめぐって起こることが一番多いからです。しかもトラブルになっているときは、得てして法的な問題というよりも、「恨み」による、感情的なしこりによるものが多いのです。これは普段から鬱積してきた不満もありますからなかなか難しいものがありますが、それでも経営者は別れ際に一工夫欲しいものです。
 そこで私が常に別れ際に関して一つだけアドバイスしていることを申し上げます。そしてこれにより離職後、トラブルを拡大させることなく終了していることが多いのです。これからはいかなる事由であれ、従業員と別れるときはこのようにされてはいかがでしょうか。

1.握手する
離職日には必ず社長が立ち会い、別れ際に握手をしてください。それも片手ではいけません。両手です。こちらから両手を差し出して相手の手を握る感じです(選挙の時、議員が両手を差し出して有権者と握手するイメージ)。心理学的には接触効果といわれるもので、印象の向上につながります。
2.頭を下げる
 握手の際、相手の目を見るとともに、頭を下げましょう。「今迄ご苦労さんでした。ありがとう。」の一言を添えて。
3.今後の幸せを祈念して送り出しましょう。
「(ウチの会社では○○さんの力を充分活かせなかったかもしれないが)次の会社(今後の人生)では、もっともっといい人に出会って、幸せになってくれ。」という感じで、今後の人生の成功を祈る気持ちを伝えましょう。

 ただこれだけです。特に今の経済情勢では、退職勧奨や整理解雇も増えることが予想されます。相手に特に非がない場合は必ずそうして頂きたいし、また相手に問題がある場合でもそうです。社長にプライドが有るのは分かります。むしろ社長から見て問題のあるその従業員に、文句を言いたい気持ちも分からないではありませんが、そこはぐっと我慢です。これだけのことでその後の不毛なトラブルを回避できるとしたらそれでいいではありませんか?
 
 追記 上記の感情的配慮とともに、退職願もしくは退職合意書を必ず、残すようにしてください。これもおざなりに出来ない、別れ際の重要な手続きです。またその他検討すべきことに、1.離職日までの就業及びその間の賃金はどうするか、2.離職票の離職事由をどうするか、3.退職金等何らかの手切れ金は必要か、 4.有給休暇の残日数をどうするか等があり、個別に検討が必要な事項です。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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10年03月25日 | Category: General
Posted by: nishimura