●4月以降に結ぶ有期雇用契約には気をつけよう
~4月以降、有期雇用契約を締結する場合の留意点 その2~


前回、同じ標題でこの問題を取り上げました。前回は、4月以降に有期雇用契約を締結または更新するときは、1.契約書の内容に新しい文言を盛り込む  2.その意味をきちっと説明するということを具体的事例を挙げて解説しました。

今回はこれらとは別に、4月以降に有期雇用契約者の労務管理について、留意しておいて頂きたいことがありますので、それを解説したいと思います。


まず以下の労働契約法新設条文をご覧ください(4月1日施行)。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。



少し分かりにくいですね。簡単に言ってしまうと、同じような仕事をしているのに有期契約だからといって理由もなく、無期契約者(正社員)の労働条件を下回るような差別をしてはダメということです。

この条文は民事的効力のある規定とされており、この条文ができたことにより、これを根拠に差別されていると考えた有期契約者が、会社に損害賠償請求を行ってくる可能性が非常に高くなったということです。これはリスクです。



ここで差別の対象となる労働条件とは、一切のものが適用となり、例示すると次の通りです。

賃金・労働時間・災害補償・服務規律・教育訓練・福利厚生など



これらの労働条件が差別されているかかどうかを判断する方法は以下の通りとされてます。
(1)職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)
(2)当該職務の内容及び配置の変更の範囲(配転、昇進、昇格、職種変更など)
(3)その他の事情(労使慣行など)
とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などを相違させる場合は、特段の事情がない限り、合理性は認められないとされています。



ここで問題になるのが、期間雇用のパートではあるが、正社員と同じような仕事をしており、その責任や役割も変わらず、人材活用の仕組みも変わらない場合です。特に問題になるのが、定年退職後の再雇用者です。多くの中小企業では、定年再雇用後も仕事その他は何ら変わらずそのまま業務に従事しており、賃金だけを引き下げるケースが多いことです。


これらのようなケースでは、今後、この第20条を根拠に、正社員と同じ待遇、定年前と同じ待遇を請求してくるリスクが考えられるのです。
まだ判例が確立していないため、予断を許しませんが、恐らく差別があるとして裁判所が無効とした労働条件は、その企業における平均的な正社員の労働条件に引き上げられるか、定年退職者なら定年前の労働条件に戻されることが推測されます。


このような事態を回避するためには、4月以降の労務管理について、以下のように合理的な差別であるとして、きちんと説明できる実態を作っておくことです。

例えば・・・・
◎ 定年後賃金を引き下げる場合、仕事の内容や役割を軽減する
◎ 職務や配置場所を限定する(特定の仕事しかしてもらわない、その場所でしか働いてもらわない)
◎ 重たい責任は負わせない
◎ 正社員には残業をお願いし、有期雇用者には時間通りに帰ってもらう など


文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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