従業員の能力(レベル)アップの方法を考える  その6

1.能力基準でなく、仕事基準で考える(キャリアアップシートの活用)
2.対象者の損益分岐点を探る(給料分の稼ぎとはいくらか)
3.自分で対策を考えさせる
4.グラフを使って視える化する
5.毎月チェックする
6.いい行動は強化する
7.インセンティブを与える
8.指導担当責任者を決める

 前回は上記のうち、5の「毎月チェックする」について申し上げました。今回はその第6弾、「いい行動は強化する」「インセンティブを与える」「指導担当責任者
を決める」について一気にお話いたします。



「いい行動は強化する」について

 行動分析学という心理学の学問があります。ここでの人間に対する考え方は、人を性格や能力という漠然としたもので捉えるのではなく、表に出ている行動に着目
し、それを制御することによって、教育指導して行こうとするものです。例えば次をご覧ください。

   管理者 承認(笑顔)なし ⇒ 社員 {会議で進んで発言する} ⇒ 管理者 承認(笑顔)あり


 仮に会議で積極的に発言しない人がいたとします。会社は積極的に発言して欲しいと思っています。その人が発言をしました。すると発言することによって管理者
から承認(笑顔)という反応が返ってきました。これは{会議で進んで発言する}という望ましい行動を承認によって強化したことになるのです。
 ポイントは{ }の部分です。この中に行動が入るわけで、それが望ましい行動ならその後の返しは承認(笑顔、褒める、うなずく)になり、望ましくない行動な
ら指導・注意して弱化してゆくこととなるのです。非常に単純な理屈です。またこれには60秒ルールというのがあって、直ぐに承認しないと、後からでは強化しにく
いと言われています。ですから良いと思ったことは直ぐに承認が原則なのです。が、実際は難しい。だからこそ、前回申し上げた毎月5分チェックの時間を仕組みで取
り入れ、何か月分も溜めないように承認して、望ましい方向へ誘導して行くのです。


「インセンティブを与える」について

 前回モチベーション理論をお話しました。金銭は動機付けにはならないのがセオリーです。行動そのものを承認し、その社員に人間としての誇りと居場所を与え、
効力感を持たせることが最重要なのですが、しかし何ら報酬に反映されないのも考えもの。また管理する立場から言っても、何も物理的に与えず、承認光線だけを出
して管理してゆくのは実際問題としてやりにくい。
でも給与が振り込みで、給与明細に報奨金が載っているだけでは、有難味も薄い。やはり金一封封筒に入れ、短く理由を伝え、直接お渡しする方がいいでしょう。
 但しきちっとした給与賞与制度があれば、その仕組みで受け止めてゆけばそれでも構わないでしょう。



「指導担当責任者を決める」

 リンゲンルマン効果(社会的手抜き)という心理学理論があります。1対1で綱引きをすると100%の力で引き合うが、2人一組で引くとその力は93%まで下がり
、3人で引っ張り合うと85%というように人数が多くなればなるほど、各人の力は最大限発揮されず、逓減してゆくという理屈です。つまり「誰かがやってくれるだ
ろう」と責任分散の気持ちが生まれ、手抜き現象が起こることをいいます。
 人材育成にはこのリンゲルマン効果を防止しなければなりません。誰かが教えるのではなく、教える責任担当者を決めることが肝要です。また人に教えるというの
は自分が分ってること、できることとは別次元に難しいものです。教える立場の社員も成長します。
 必ず責任担当者を決めましょう。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com

null