●逆風が吹く「みなし労働時間制」 その適切な運用方法を検討する (H26.7月号)


 かつてH20.7月のメルマガにおいて、「外勤仕事がある会社は、残業代が要らない、「みなし労働時間制」を適用しよう」という記事を配信しました。ところが本年、最高裁において旅行添乗員のみなし労働時間制が否定されるという、企業にとってはショッキングな判決が出ました(阪急トラベルサポート残業代請求事件 H26.1.24)。これにより、みなし労働時間時間制を採用することは非常に困難になったと解する向きもあるようです。
 しかしこの結果においても、裁判所が新たな規範を制定したとまでは言えないのではないかと思っいます。つまり、従来の解釈運用の延長線上にあるものと思われます。これからも運用をきちんとすれば、なおも使える制度なのです。そうでないと、労働基準法が法本則でこの制度を定めている意義自体が没却されてしまいます。


 ここで念のため、みなし労働時間時間制とは何か、簡単におさらいしておきます。

 営業など外勤活動において、会社がその労働時間を正確に把握できないときは、裁量労働制の一種である「みなし労働時間制」を適用することができます。この場合は、原則的に社内で行った業務を含めて、所定労働時間の労働とすることができ、残業代は発生しません。例えば、所定労働時間が8時間で午前中は事業場内で業務に従事し、午後から事業場外で業務に従事した場合、午後からの労働時間の算定が困難なためにその日全体としての労働時間の算定ができないのであれば、みなし労働時間制の適用ができ、原則として、その日は事業場内で業務に従事した時間を含めて全体として所定労働時間の8時間を労働したことになるというもので、始業終業時刻の前後にはみ出した時間が有っても、特段の指示でもない限り、8時間だけの労働になります(但し、常態として所定労働時間を超える場合は例外があり、この解釈には結論が出ておらず、議論の余地が有るが、ここでは割愛します)。


 今回の本論に戻ります。この制度の適切な運用とは、ひと言で言い表すならば、「如何に労働者の自由裁量度があるか」、にかかっていると言ってもいいでしょう。ではその自由裁量度を肯定される(または否定される)事実とは、一体、どういったものでしょうか。

 行政解釈では否定されるパターンとして、以下の三つを例示していますが、これは司法でも尊重されているものと思われます。

(1)グループ活動において、労働時間を管理する人がその中にいる場合
(2)携帯電話などで逐一、会社から指示を受けている場合
(3)外出前に訪問場所や時間を予定し、その通りに帰ってくる場合
 

私見ですが、これらを具体的に根拠付ける運用としては、以下のようなものが考えられます。

1.訪問前に詳細な行動予定表は作らない。

2.訪問先、順番、ルートの計画は本人に任せる(事前に細かな指示を出さないこと)。

3.たまには直行・直帰を認める。

4.会社から携帯電話等の通信機器を貸与しない(連絡が必要なら本人所持の携帯を借り受けること)。

5.会社指定のSNSアプリを導入しない。

6.逐一、社内から携帯電話やメールをしない(一旦外出すれば指示は出さず、連絡も必要最小限に抑えること)。

7.逐一、外出先から報告や進捗状況を求めない(帰社後にまとめて報告を受ける程度にする)。

8.外出中は、「さぼり」をある程度許容する(所定の休憩時間分にこだわらず、結果さえ出せば良いくらいの度量が必要か)。

9.タイムカードは使用せず、自主申告を認める。

10.自主申告の時間は、まるめた時間で良い(みなした時間の記載で良い。帰社後に会議など、特別の業務がある場合は別)。

11.日報には時間を記録しない。

12.採用時に雇用契約書においてみなし労働時間時間制の適用であることを合意しておく。


 これらを全て履行できないと、ダメというわけではありません。しかしこういった事実から自由裁量性を判断していますので、できるだけこういった運用が一つでも多くできることが望ましいです。逆に言うと、ほとんど無理、というのであれば、みなし労働時間制の適用はあきらめた方がいいでしょう。

小規模企業の賃金制度を得意としています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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