「便利屋」という職業が登場したのは十数年前でしょうか。そのネーミングのせいか、「便利屋=急場しのぎ」と思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、様々な雑事の代行業務を行う便利屋は「サービス業」という立派な専門職でしょう。雨樋の修理と除草と犬の散歩と買い物代行を、ひとつの会社に頼めるのは利用者にとっての大きなメリットで、だからこそニーズがあるのでしょう。便利屋のニーズがあるのは「とりあえず何でも引き受ける」からではなく、困ったときに何でも頼める「“便利”の専門職」だからなのです。
 商売をしていると、広くお客様を取り込みたいがために「何でもやります」とうたってしまうことがあります。確かに、「これしかできません」より「何でもお任せくださ!」のほうがお客様に喜ばれるような気がします。しかし、とりあえず間口を広くしておけば有利だろうという発想では、なかなか上手くはいかないものです。たとえば、原因が分かっている腰痛の治療に、わざわざ総合病院を訪れる人がいるでしょうか。原因が分かっているなら、その腰痛の治療に長けた病院を探すはずです。そこで「得意分野は腰痛です」とうたっている治療院があれば、もちろんそこに足を運ぶでしょう。せっかくなら専門のところで診てもらいたい。患者として、ごく当たり前の選択です。
 総合病院を訪れる患者は、自分の症状に合った専門病院が見つかればそちらに流れて行きます。つまり、腰痛も肩こりもむち打ちもリハビリも「何でもござれ」だとしても、あえて「これが得意です」と専門性をアピールすることで、患者に選ばれる確率が一気に上がることはすでにご存知だと思います。ただ単に「総合病院発想」の商売をしていたなら、一時は盛り上がっても次第にお客様は離れていくことでしょう。しかし仮に今、「総合病院」の看板を掲げて商売をしていても、「あなたの症状に合った専門病院を見つけます」と提案すれば、それは立派な「専門病院」と同じ立場になるのではないでしょうか。