■「十牛図」

「十牛図」は、禅の悟りにいたる道筋を牛を「幸せ」に例えて、
それを追い求めるプロセスを10枚の絵で表したものです。

「悟り」を開くとは、現実の世界では「人生観」を得ることにつながると
思います。

禅は、本来、この世を強く生きるための知恵でもあります。

私は、禅の解釈にこだわらずに、現実のビジネスの世界に照らして
まず、十枚の絵をカンタンにご紹介したいと思います。

1.尋牛(じんぎゅう)位

  牛(幸せ)を捜そうと志す事であり、マンネリから脱出を決意する事
  であります。

  この決意(初発心)が重要なのです。

  ビジネス的には、長いマンネリに浸っていたが、
  「このままではイカン」
  と一念発起して、改善しようとすることに繋がります。


2.見跡(けんせき)位

  苦労してやっと牛(幸せ)の足跡を見つけるという絵です。

  ビジネス的には、マンネリを打開する方策を探すのですが、
  苦労を重ねて、その手掛りを見つけた状態です。


3.見牛(けんぎゅう)位

  足跡を追っていくと木の陰に牛の半身を見つけるという絵です。

  ビジネス的には、その脱マンネリの手掛りをたぐって行き、
  具体的な打開策が見えて来て、少し光明がさしてくるのです。

  しかし、まだ牛(幸せ)の半身なのです。


4.得牛(とくぎゅう)位

  静かに牛に近づき縄をかける絵です。

  ビジネス的には、その打開策を絞り込んだ状態なのですが、
  まだまだ自分のものにならないのです。


5.牧牛(ぼくぎゅう)位

  逃げようとして暴れていた牛がやっとの思いで慣れて牛を飼い育てることに
  成功する絵です。

  ビジネス的には、打開策を手に入れて、これから実践段階に入る段階です。

  しかし、現実には、いろんな障害が待っているのです。


6.騎牛帰家(きぎゅうきか)位

  荒れ狂った牛も今は全く手慣れ純和な牛となり、その牛の背に乗り家へ
  むかうことであり、悟りがようやく得られて世間に戻る姿をいう絵です。

  ビジネス的には、幾多の障害を解決して、ノウハウが蓄積されて、
  その打開策が自社のものになりつつある状態で、、
  期待感が高まって来た心境を指します。


7.忘牛存人(ぼうぎゅうぞんにん)位

  騎牛帰牛で牛と自分が一体になってのですが、
  実は、牛(幸せ)は外のものではなく自分の内にあるものであるということを
  知った姿を表す絵。

  ビジネス的には、苦労を重ねてえた打開策がうまく展開し始めて、
  改善の効果が出て来て、ワクワクしている状態であり、
  一体感が高まっている状態。


8.人牛倶忘(にんぎゅうぐぼう)位

  すべてが忘れさられ、無に帰一すること。
  悟りを得た修行者も特別な存在ではなく本来の自然な姿に気づく。

  ビジネス的には、打開策が定着して順調に進展して、
  それまでは、とやかく注意する場面もあったが、皆が自分のものになり
  風土として定着した状態になる。


9.返本還源(へんぽんげんげん)

  原初の自然の美しさがあらわれてくること。
  悟りとはこのような自然の中にあることを表す。

  ビジネス的には、風土化してうまく展開しているので、
  最初に苦労した打開策を得ようとした努力が不必要になるのです。


10.入てん垂手(にってんすいしゅ) - まちへ...

  悟りを得た修行者(童子から布袋和尚の姿になっている)が街へ出て、
  別の童子と遊ぶ姿を描き、人を導くことを表す
  「てん」は汚染した俗界のこと。

  ビジネス的には、このうまく行った成功事例をオープンにして
  広めようとする事を指します。

参照:廓庵禅師 十牛図
http://www.sanbo-zen.org/cow.html

注:私は、禅の専門家ではありませんので「浅学」に過ぎません。
その為に、禅的には誤りかも知れないことをお断りしておきます。


■「十牛図」に学ぶ

私は、この十牛図に学ぶ点は多いと思います。

十牛図は、マクロに考えると
「カオス」(混沌)→「ノモス」(制度)→「コスモス」(秩序)
という状態の変遷を説いているように思います。

禅の世界では、個人が「悟り」を得ることを求めますが、
ビジネスでは、集団が「悟り」を得る必要があるので、困難度が違います。

私は、3月29日号で、「改善の4人衆」として
1)トンでもないことを言い出す人
2)そのトンでもないギャップを埋める方法をヒラメク人
3)そのヒラメキを徹底して実践し「術」化する人
4)その「術」を横展開する人
と4つの役割をご紹介しています。
参照:http://www.web-ami.com/mailnews/080329.html

十牛図では、「カオス」に直面して「これではイカン!」と一念発起して
初発心(修行にはいる)する事が第一歩なのですが、
ビジネスでは、まず周囲から「トンでもない」と非難されるようなことを
言い出す事から始まるのです。

「十牛図」的に表現すれば、
「尋牛」→「見跡」→「見牛」
と進むのですが、
「改善の4人衆」では、役割分担していますので、
1)の「トンでもないこと言い出す人」は、「尋牛」に相当して、
2)の「ギャップを埋めるヒラメキの人」は、「見跡」(手掛り)から
「見牛」(半身)へと進む状況に相当する
と考えます。

さらに、3)「徹底して術化する人」は、
「得牛」→「牧牛」→「騎牛帰家」
の段階に相当すると思います。

そして、4)「横展開の人」は、
「忘牛存人」→「人牛倶忘」→「返本還源」→「入てん垂手」
に相当すると思います。

「餅は餅屋」とか「文殊の知恵」とか言いますが、
「役割分担」をしないと集団では実践が難しくなります。

ところが、状況の芳しくない会社では、「他人」を攻めるばかりで、
自分が動こうとしないのです。

モメゴトを孕んだ状態では、組織が活性化する訳がありません。

「〜〜しましょう」という運動で改善が進むのであれば結構なのですが、
多くの場合、「掛け声」は空しく響くだけであります。

やはり「術」に落とし込んで、具体的に示す必要があるのです。

「ノモス」は、人為的なものであり「制度」などを指すのですが、
私は、「術」という具体的なもので即実践できるようにする事が大切
と考えます。

ドンドン「術」で具体的に成果を出すことによって、
人が変わってくるのです。

「コスモス」(秩序)という状況は、
その「術」が当たり前になっている状況と言えます。

しかし、折角、「コスモス」という状態になっても周囲の環境が変化して
一挙に「カオス」に戻ってしまうのも事実です。

「気を緩める」ことを戒めねばなりません。

大企業では、R&Dを専門部隊が行いますので、定期的に新製品が出るなどで
陳腐化を防ぎますが、多くの中小中堅企業では、この辺が弱いのです。


■「楽笑」の場合

このメルマガで毎号「楽笑」さんの「訓」をご紹介していますが、
シンプルな言葉で「気づき」を喚起されています。

楽笑さんは「夢」「笑」「楽」の3文字をキーにして、
いろんな「訓」を「元気が出る本」に書いておられます。

★「元気が出る本」(楽笑著 1000円)は、丸十MBAさんのネット通販
http://maluju-mba.com/shop/31_70.html
で購入する事が出来ます。

禅では、「悟り」を開くのに「修業」が必要ですが、
楽笑さんは、
『一生懸命だと知恵が出る
  中途半端だとグチが出る
  いい加減だと言い訳が出る
    手ぬきなや〜:楽笑』
とシンプルに戒めておられます。

たしかに、「知恵」がドンドン湧いてくる会社は強くなりますね。

その反面、「グチ」や「言い訳」が蔓延するようでは、組織の規律が乱れて、
ついには「どうでもよい」という気持ちが湧くようになってしまいます。

管理者として、「グチ」や「言い訳」を見逃してはならないのです。

私は、そういう意味の「手ぬきなや〜」という言葉だと思っています。

「ノモス」(決りや制度)を折角、作り上げても、
社員の皆さんが実践せずに、「グチ」や「言い訳」に終始するようでは、
「ノモス」が崩れるだけです。

「鬼」のような管理者がいて、組織風土の乱れに注意する必要があるのです。

社員さんは、「甘い」も「辛い」もよく知っています。

「甘い」と見抜かれると収集がつかないのです。

私は、トヨタの鍔本先生から「管理者の3つの仕事」として
・目標指示
・部下育成
・問題解決
を教わっています。

この最初にある「目標指示」を出して、PDCAのサイクルを回すのが
管理者の基本なのですが、
「目標」を出したは良いが、「出し放し」に終わる
のでは、「部下育成」に繋がらないのです。

必ず、実践の状況をチェックする必要があるのです。

カンタンに「あれ、どうなっている? 次は、いつ?」で良いのですが、
こんな短い言葉すら投げかけられないのです。

「手ぬきなや〜」

ホントに、そんなカンタンな事が重要なのです。


■まとめ

・「カオス」(混沌)→「ノモス」(制度)→「コスモス」(秩序)

・『一生懸命だと知恵が出る 中途半端だとグチが出る 
   いい加減だと言い訳が出る 手ぬきなや〜:楽笑』

・「あれ、どうなっている? 次は、いつ?」



■当「AMIニュース」のバックログは、
http://www.web-ami.com/mailnews/main.html
でご参照ください。