■「ちょっとの差」

私の大恩人である福井社長は、「人生はちょっとの差だよ」と
よく話して下さいました。

確かに「ちょっとの差」を積重ねることが大切なのです。

私は、お客様に「ちょっとの差」を説明するのに
「A社とB社があって、それぞれ100球ずつ持っていて、
1回ゲームする度にA社は1球失い、B社がそれを得るとすると
A社とB社の持ち球の差が3割開くのは何回目か?」
という例題を使います。

これは、ORでは「マルコフ連鎖」と呼ぶ例題で初歩問題です。

つまり、
A:100 B:100
A:99  B:101
A:98  B:102
  ・・     ・・
とA社にとっては僅か1個、1%ずつ失い、
B社は1個、1%増やして行くのです。

皆さんは、何回目だと思いますか?

実は、13回目で
A:87  B:113
になるのです。

この時、113÷87≒1.3 になるのです。

手持ち88から87に1個減少する時も、僅かに1.1%程度なのです。

この1%の減少は、なかなか分かり辛い変化なのですが、
しかしながら、13回も続くと3割も差がついてしまうのです。

トヨタと日産の格差も
「この1%」
から始まったと思います。

2倍の差がつくのは、34回目で
A:B=66:134
で2倍の差になるのです。

私がトヨタオート大阪に入社したのは、昭和48年(73年)ですから、
あれから35年が立ち、ホントにシェアは2倍になっています。

「たかが1%、されど1%」であり、まさに、
「1円を笑うものは、1円に泣く」
と言いますが、まさに1円を大切にする事が大切だという例であります。

よく「見切る」という話がありますが、
私は、営業マンに「トコトン勝負して勝ちに行け」と指導しています。

トコトン勝負する事が重要なのです。

確かに「見切る」という言葉が存在しますが、「勝負」の話ではないのです。

「勝負」は、勝たねばならないのですが、よしんば、負けたとしても
トコトン勝負しておれば、負けても相手に大きなダメージを与えることが
出来るのです。

相手にダメージを与えておけば、お客様にも印象が強く残りますから
敵の失敗でリターンする可能性が高まるのです。

「負けてからが営業」と言いますが、「負け方」も重要なのです。

営業の方々は、この精神が重要です。

私は「見切る」という言葉は好きではありません。


■「5勝4敗」

次に、よく使う例題に「5勝4敗」の話があります。

この話は、どんな世界だと思いますか?

お客様に想像して頂くのですが、なかなか正解は出ないものです。

実は、「プロ野球」の世界であり、
「5勝4敗」は、勝率5割5分5厘であり、これは優勝争う上位2チームの
戦績なのです。

逆に「4勝5敗」は、勝率4割4分4厘で下位2チームの成績なのです。

プロ野球は、通常3連戦を組み、同一チームと戦うのですが、
この3連戦を3回して、1つ勝ち越すか負け越すかで、
優勝争いか早々と来年の補強という状況になるかの境目なのです。

プロの戦いの物凄さが現れています。

「打率3割3分3厘」と「打率2割5分」の差も大きいです。

3打数1安打か4打数1安打かなのですが、
前者は、首位打者でスター選手で、且つ、年俸何億円の高額所得者であり、
後者は、1軍レギュラーの座の境目なのです。

1試合で4打席ほどあるのですが、1打席の重みは、年収にしても
「ちょっとの差」と言えないものがあります。

さらに、ゴルフでは、4日間で72ホールの戦いをするのですが、
ダントツの差で勝つというケースは少なく、殆どが1ストローク差なのです。

1ストロークは、パットが1回余計に入ったかどうかの差なのです。

ゴルフをする人はよく分かると思いますが、パーという基準があるのですが、
各ホールで2パットする計算で設計されているのです。

バーディは、パーより1ストローク少ない事を指すのですが、
概ね4日間で10アンダーというのがプロの優勝ストローク数なのです。

すなわち、1ラウンドはパー72というコースが多いので、
10アンダーは278ストロークであり、
9アンダーは279ストロークなのです。

僅か1ストローク差は、全体でみれば0.36%程度なのです。

ホントに、プロの世界は厳しいものがあります。

賞金総額を1億円とすると、通常、優勝は18%、2位はその半額なので、
1ストーク差で、1800万円か900万円という差になるのです。

アマチュアの戦いならば、カップか否かのゼロサムゲームになってしまいます。

ホントに「ちょっとの差」なのですが、大変な違いになります。


■「8勝7敗」

この「8勝7敗」は、大相撲の世界です。

実は、昔、長谷川という名関脇がいましたが、彼の成績から生まれた話です。

大相撲には、「給金を直す」と言う言葉があり「8勝」は、地位を落とさない
基準なのです。

そして、勝ち越すと昇進するので、連続して勝ち越すと必ず「関脇」になる
ことが可能なのです。

しかし、関脇から大関に昇進するには「8勝7敗」ではダメで、
3場所連続して2ケタ勝利、かつ、通算で33勝が目安となっているのです。

やはり、大関や横綱という地位には大きな意味が込められているのです。

千代富士関が大関・横綱と昇進するキッカケになったのは、腕力を強化して
「前みつ」をとり、強烈な引き付けで相手を圧倒する必勝パターンが出来て
これだけで8勝を上げられるという得意技が完成した事によると
言われています。

この8勝をあげられる「必勝パターン」がキーワードなのです。

長谷川関は、21場所、関脇を務めた記録が残っていますが、
結果的に「大関」に昇進できなかったのは、
圧倒的な「必勝パターン」の欠如が原因と言われています。

しかし、大相撲で関脇に昇進するのも並大抵ではなく、
まして、21場所も関脇を勤めるたのは、至難の技なのです。

長谷川関の記録を塗り替えたのは琴光喜関なのですが、
琴光喜関は、大関に昇進しているので、長谷川関の記録は違った意味で光りが
あります。


■「必勝パターン」

この「必勝パターン」は、皆さんもよくご存じのプロ野球でも使われるように
なりました。

阪神タイガースのJFKは有名です。

J:ジェフ・ウイリアムズ、F:藤川、K:久保田の3人の頭文字です。

先発投手が6回まで頑張れば、7回以降は、JFKの3人が1回ずつ登板して、
「勝つ」という投手リレーなのです。

昔は、金田投手に代表されるように先発完投というパターンでしたが、
試合数が多くなったアメリカ大リーグでは、先発投手に投球数100球程度に
目安をおいて、リリーフ陣につなぐケースが多くなったのですが、
日本でも、この考え方が採用されるようになったのです。

先発投手は、6回、100球を目標に全力投球し、7回からはリリーフ投手が
1回を全力で投げては、交代するのですから打者に与えるプレッシャーは大きな
ものがあります。

野球という9回を戦うドラマを7回で終わらせるので、面白さを半減する向きも
ありますが、どのチームも「必勝パターン」を完成させるべく、速球派投手の
獲得に力を入れています。

この「必勝パターン」は、ビジネスの世界でも重要です。

私は、
マーケティング=「人」x「物」x「人」
と定義しています。

すなわち、「売り手」と「買い手」の間に「物」が介在するのです。

この「物」が素晴らしいものであれば、「売り手市場」になるのですが、
そんなに都合よく行かないのが人生です。

やはり、「売り手」側が「商品」を伝えるしか他に方法がないのです。

ところが「イン・プリンティング」という作用がお客様の頭の中に働いて、
実は、今、購入している商品しか「買い手」に伝わっていないのです。

よくトップ営業でお客様を社長さんが訪問すると
「こんな商品も相手に伝わっていない」
と嘆かれるものです。

そうなんです。

貴社の営業マンは、「御用聞き」営業という状態なので、リピート受注しか
起こらない構図になっているのです。

こんな状態から脱出する「必勝パターン」を描く必要があるのです。

私は、Fax通信をお薦めしているのです。

既存のお客様に月1回程度で、商品を案内するのです。

たまに、「○○を3個ご購入で1個無料でプラス」という風なオファーを
つけるとお客様にも適度な刺激を与えることが出来るのです。

また、Faxで紹介した「商品」を営業マンが「あれ、見てくれました?」の
軽い挨拶から入り込めるという「手順・ツール・トーク」に持ち込むのです。

この軽い「あれ、見てくれましたか?」という問い掛けがキーなのです。

「Fax通信」→「あれ、見てくれましたか?」
という「手順・ツール・トーク」が「必勝パターン」となるのです。

「軽い」というのがポイントです。

「売り手」も「買い手」も「軽い」ので、プレッシャーが少ないのです。

こんな状態から
「売上」=「商品」x「時間」x「回数」
という公式に持ち込むのです。

最初の関所である「商品」という難関を突破したので、
次は「時間」ということで、商品知識と会話術が課題になるのです。

もちろん、1回で決めるのは訪問販売の究極ですが、無理をするのではなく、
「終止トーク」で、次回につなげる工夫で「回数」を重ねるのも重要です。

因みに、営業の3つのトークは
「切り出し」・・あいさつなどの波長会わせから本題に入る時に使うトーク
「応酬」・・お客様がNOと言った時に切り返すトーク
「終止」・・次回に課題を残すトーク
であります。

意外に、出来ないなのが「終止トーク」なのです。

「次のアポくらい取って来いよ」
という状態が現実的に多いのです。

営業管理者は「鬼」になって、
「次は、いつ行く事になっているのか?」
と毎回、聞き出して、シドロモドロになっている営業マンに
「Next アクション」
を促す必要があります。

実は、この「Next アクション」を取ることが「必勝パターン」の入り口
なのです。


■まとめ

・僅か1%の差を13回積重ねると3割の格差がつく

・営業の現場では「見切る」という言葉は現実的にはない

・「5勝4敗」はセリーグの上位2チームの勝率

・「8勝7敗」は、名関脇の基本条件である

・「必勝パターン」