●成績下位者も褒めなさい
 経営トップの腕前は、人の動かし方活かし方にある。
 それも、「右向け右」と号令かければ、左を向くような、じゃじゃ馬や暴れ馬を手なづけて思いのままに動かすような用兵の妙こそ、人と組織の活性化に通じる。
 ところで貴社では、営業マンを褒めていますか?
 こう尋ねられると、「もちろん」と答える会社が多い。ところが続いてこんな質問をする。
 「営業実績が、低迷した下位の人たちも褒めていますか?」
 すると多くの会社が、「どうして、成績の悪い連中まで褒めるんだ?」という感じで、褒めてはいない会社が圧倒的に多い。要するに表彰は、成績上位の者ばかりなのである。
 しかし社長が、全営業マンの成績平均値を底上げし、会社の業績を少しでも底上げしたいと、強く願うのなら、成績低迷者も褒めることを工夫するがいい。
 こういうと、「成績の低い者を、一体どうやって褒めるんだ?」という人がいるが、ある人が実際にやった方法をご紹介しよう。
 あるバッグ袋物の問屋でのこと。組織に信賞必罰のメリハリはなく、活力もなく、ただ惰性で動いている営業組織だった。
 そこで考えたことは、営業組織への何らかのインセンティブ(刺激策)が必要と考え、その一つとして表彰(褒める)基準を整備した。上位を褒めることに余計な神経は要らなかった。
 そこで下位の者を褒め、意欲の底上げを考え、「上位入賞者以外で、対前年同月比10%以上の売上高伸び率の者」上位3人に、「登はん賞」を授与することにした。
 登はんと命名したのは、絶壁をよじ上る“登はん”にちなんだ。
 こうすれば、実額ではなく伸び率を対象としたから、成績低迷者にもチャンスは広がる。むしろ、10%もの伸び率は、もともと実額が低いのだから、成績低迷者に有利な制度だった。

●褒め方次第で、下位者も頂上目指す
 この制度は、当初の目論見通り、慢性的な成績低迷者も入賞した。
 この制度を考えた根底には、「人は褒められて、嬉しくない人間はいない」ということだった。「表彰なんか・・」と、褒められることを軽蔑する人もいるが、心底では、“認められたい”、“褒められたい”のである。
 万年低迷組にいた営業マンの一人は、この表彰を契機にして、じりじりと実額でも中位から上位に食い込み、3年後には、成績上位ベスト3に入るまでになった。
 意欲沈滞した人でも適時適切に褒めれば、成績下位者でも、成績上位者にまで登はんさせることは、決してむずかしいことではない。