あるコンサルタントの話しである。 顧問先の社長が、駅付近の喫茶店まで迎えに来てくれると言う。謝意を述べて甘えることにした。
するとやがて社長は来てくれた。けれども社長は会うなり質問に次ぐ質問である。勿論、経営に関することである。先生には、顧問料を払っているから、時間が勿体ない。質問も顧問料のうちと心得てください、という調子である。
しかし、イヤ味がない。カラッとしている。
気が合うとはこのことか。二人は名実ともに意気投合した。
会社に着くと、幹部会議のため既に幹部一同集めてある、という具合だ。
私の話を聞くために、3時間の予定を組んであるのである。
社員数は約300人。中部電力の外線工事を主体の電気工事会社である。
この社長は、極秘ですがといって、「中部電力の仕事は、社内シェア50%を切るまでになり、他の分野にシェアを増やさねば、百年は生きられません」と言う。
下請け脱皮の予言である。
この社長の言葉は逐次実行に移され、ついに中部電力のシェアが40%台を切り、それでも全社の売上は上昇していった。では他の新規の売上高は何か? 火葬場の設備関係であった。
加えて感心なのは売上高上昇率を上回る、利益率上昇を達成しているのである。
よく、儲けたければ他人のやらないことをやれ!と言われるが、この法則を実践した社長である。葬炉の無臭化研究が効を奏したのだ。
今度は帰京する私を、駅まで送ってくれるという。
「しかし、新幹線の定刻には時間が早過ぎますよ」と社長。
「心配ご無用。ちゃんと原稿執筆に時間を割り振りしてありますから」と返事。
「いやあ、参った参ったあ。時間は先生も貴重でしたね」と社長は言われたそうである。