●畑違いに通じる人にはニュース性がある
 事業や経営における、発想の柔軟性について考えてみよう。
 テレビCMで、「青雲」というお線香のことを知る人は多いと思う。企業名は“日本香堂”。
 もちろん「青雲」は、多くのお線香の代表ブランド。
 そこであなたにお尋ね。東京銀座に「銀座らん月」という、老舗とも言えるすきやき店がありますが、“日本香堂”との関係はご存じでしょうか。
 じつはこの畑違いの両社は、同じ人物が創業している。同一人物の発想(戦略思考)から誕生しているのである。繰り返すが、まるで畑違いの業界なのだ。
 しかも、すでに両社の経営歴は、とうに老舗の領域に入っている。創業時の発想も、経営(組織運営)の発想も、視野が広く、運営の妙を心得た柔軟性がなければ、到底成功できない話ではなかろうか。
 ここで、こういう畑違いの創業や経営の話を持ち出したのには、もちろん理由がある。
 こういう企業の意思決定権者の頭の働きに、“非常に柔軟性がある”からである。
 たとえば、愛知県の犬山地域で、独壇場に近い市場制覇を成し遂げている米穀問屋は、タクシー会社も経営し、通信販売でも成功している。
 単独業種の経営者に比べると、視野は比較にならないくらい広い。
 単独経営者とは会談中に、ミュージカルや緑のカーテンに脱線すると、途端に会話に行き詰まる人が多いが、畑違いの業種に通じている経営者は、ちゃんとスムーズな会話が継続できる。
 単独経営者の情報が、一般に〈線〉であるのに比べて、複数業種の経営者には、〈面〉の情報が感じられるのである。面の情報とは、ニュース性がある、ということ。
 ニュースはNEWSと書くが、語源はN北、E東、W西。S南から来ている。順番を入れ替えると東西南北となる。つまり、関心と興味が四方に働く、マルチチャネラー型なのだ。
●線型よりも〈面型情報〉がいい
 たとえばマルチチャネラー人間といえば、カップラーメンを発明した、安藤百福さん(日清食品の創業者・故人)が、まさにそういう人だった。
 この安藤さんは、何もカップラーメンだけに成功した人ではない。安藤さんは、元々台湾の人で、東洋莫大小(めりやす)という、メリヤス専門の商社で大成功したり、その成功の勢いで大阪にも会社を作り成功しいてる。
 戦後の経済政策の生け贄にされる格好で、このビジネスに終止符を打ったが、この安藤さんなどは、まるで好奇心のカタマリだった。
 「街の街頭売りに人が集まっていると、必ず覗きました。説明を聞いただけで、理解ができないと質問しました。質問してなお詳しく知りたいときは、商品を手に取って見ました。見ただけで興味が満たされないときは、買って帰りました」
 これは安藤さんの、マルチチャネラーぶりを物語る逸話だが、こういうマルチチャネラーぶりは、大いに見習いたいものだ。
 金沢の兼六公園をはじめ、各地の公園では冬を前にして、樹木に“雪吊り”を施す。もはや冬の風物詩にさえなっていることは、ご承知のとおり。
 ところが枝をよく見ると、大きな枝に綱が結わえてある。
 細かい小枝はそのままである。小枝は雪が積もると、枝がしなって雪が滑り落ちるから、折れないのだ。
 一見頑丈に見える大枝は、しなることができないから、吊って支えるのである。経営でも、初志貫徹の鉄の意志は大事だが、同時に雪吊り同様に支える必要もある。
 “しなやかさ”という意味は、柔軟性や創造(独創)性と考えればいいと思う。
 その、柔軟性や創造(独創)性こそ、〈面〉タイプの情報が根源になっているものだ。
 ところであなたは、映画好きですか。ミュージカル好きですか。疑問が湧くとネットで調べてキーを叩きますか。レンタルビデオで、懐かしい映画で往時を偲びますか。
 こういう趣味の生活も、柔軟性やしなやかな発想力の原動力になっているように思う。
 なお、単独事業の成功者にも、〈面型情報〉の経営者がおいでなのは当然である。