3.行為準則法定の愚

契約法の出発点であったはずの、特に非正規労働者の保護が大企業の労使への利益推進となってしまった原因は、政策決定過程の崩壊だけではないと花見氏は指摘している。
《むしろ、そもそも個別紛争の増大に対応するために、法律で個別労使の行為準則を規定することで対処しようという発想そのものに問題がある。》

そこで花見氏はかつて疑問を提起してきた時短政策について触れている。
《約20年間にわたるこの政策の結果は、(略)より闇残業の日常化をもたらし、過労死問題を拡大増幅させた。今年になってメディアに大きく取り上げられているマクドナルド店長の残業代不払い事件の判決(東京地裁、一月二八日)や派遣先に労災補償の使用者責任を認めた大和製罐事件判決(同、二月一三日)の事例を見ても、現在の日本では、個々の労働者は労働基準行政と組合運動の機能不全の結果、裁判所に救済を求める以外に救いがないというのが実情といえよう。》


統制体制時において公定価格と闇価格とが並立したように、日本ではその二重秩序が最も大きい問題として未だ放任されているのかも知れない。
法律を作れば国民は、その裏をかく習性をもってしまっており、それが問題の解消をより複雑にする。もちろん、政策過程もこの二重秩序の中で進められるのである。
管理監督者の労働時間法制適用除外については、何をわかりきった古くさい話をと社会保険労務士の間ではクビを傾げる問題なのだが、大手一流企業がそれに引っかかったとなると偽装請負等同様優秀企業の不穏な傾向に疑問が湧く。
内部自治(労務管理)のコントロールもなく、監督行政も機敏でなく、「裁判所に救済を求める以外に救いがない」という実情をどうすればよいのだろうか。訴訟に馴染んだ国民とはいえず、それだけに他の方策が求められる。