労働時間の規制撤廃―甘利再生相
時事通信 6月10日(火)21時26分配信

《甘利明経済再生相は10日、産業競争力会議後の記者会見で、政府が導入を決めた労働時間規制を撤廃する新しい労働時間制度について、年収1000万円以上を対象にする方針を明らかにした。》
《厚生労働省は5月、制度導入に際し、対象を年収数千万円の為替ディーラーなどの「世界レベルの高度専門職」に限定する案を示した。
 これに対し、甘利再生相は10日の会見で「日本にそんな人がいるのか。探すのも大変なぐらいだ」と批判。高い技能を持つ年収1000万円以上に対象を広げる考えを示した。
 国税庁の統計によると、年収1000万円以上の労働者が全体に占める割合は3.8%。甘利再生相は技能や職務範囲などで条件を絞り、新制度の対象者を全体の1、2%とする意向だ。》

もともと経営者団体の提案に何ら合理性も説得力もないため、もはや素人法案でしかなくなっている。どういう理屈で産業競争力がつく提案なのかが明瞭どころか接点すら見つけ難い。どうせなら、江戸時代のように借入金帳消しであるとかせめて金利付き貸付禁止と無効など思い切った提案をすべきである。それほどまでに切迫していたのかと如実にわかる。

「日本にそんな人がいるのか。探すのも大変なぐらいだ」と言っているが、それくらいにこの法案の意義がないのだ。経営者団体の恥として残る。
やはり経営者よりも労働者の方が、経営能力の点では上ではないか。無論、かつての労働団体ほどではないが、経営者が労働団体の提案を受けてそれを執行していくというやり方が、日本においては成功する可能性が高い。尤も、今のところ、労使ともに、日本産業を代表しうる者はいない。
だからこそ、国に実験企業を経営者から提供させ、データ管理及び報告を逐次公開しながら、その効果を測定しその是非をみていくというプロセスが必要である。国の法律に影響を与えるという行為はそれだけ大きい。また、法案成立後は「無責任」という従前の慣習から脱し、法律施行後のコントロールを常に監視できていなければならないことからも、実研企業の提供は義務付けられるべきである。

なお、雇用主が実労働時間、休日、休憩、深夜労働規定の適用を外すということはどういうことになるのか。単に賃金とのリンクを外すだけのようだが、それならば従前通り大枠の就業管理及び民事賠償責任等はそのままである。無論、人事権は雇用主にあるのだから、その反対の責務はそのままである。そうなれば、雇用主はそもそも管理していない状態にほぼ近いものであるため、労働者の一方的な主張しかなく、雇用主は抗弁できるものを持たない。無過失責任のリスクがあるといえる。それならば業務上に関わる刑法適用条項をあらかじめ法案に設定しておいた方が親切である。