〇ようやく「これこれこういうことって労働法違反ですよね?」という質問に対して、躊躇することが普通になってきた。

違反が明らかな場合でもそうである。
一方からの質問であれ、両当事者が揃ってのものでも同じである。

今ではたいていの者は、判決が確定するまでは「容疑者」であって「犯人」ではないことは知っている。これもなかなか浸透しなかった内容であったが、今では「常識」にまで高まっている。これと似ている。

例えば、定期に、給料が払われていないことは既に「法違反」ということになるといえる。したがって「法違反ですよね?」という質問に、法違反確定ですと言いたいところなのだが、まだ話だけの段階なので、資料等で事実関係の確認を行う。で、確認できたとして、法違反だと言えるか。
質問の回答者には法違反と確定させる資格がない、だけの話。つまり、裁判所で確定してはじめて法違反なのである。

実際には無論、行政による調査と指導が行われたり、労組が取上げて団交したりして、裁判外で決着することが普通である。

〇裁判外で労使紛争の解決する技術はますます大事になっている。前段の質問のように、まだ刑事手続ルールについてまでの理解は一般に及んでいない(尤も、今の事項のみの理解で充分ともいえるが)。だからスッキリと整理されない状態で余計にややこしくなる。労働トラブルは客観物が貧弱なことが多く、刑罰を与えるだけの根拠が弱く、裁判の前段階で不起訴にされ、したがって立件されることも少ない。このあたりの事情こそ、日本の労働問題の核心というべきものである。よって結局、誰も法的認定の資格がない者どうしが裁判外(司法外)でモヤモヤとくすぶり続けているのである。