特定社会保険労務士資格ができて数年経つが、まだ定着までには至っていない。むろん、もともと簡単な業務ではないこともあるにせよ、である。

初期の資格はあっせん代理人であったが、それもすぐに紛争解決代理人に引き上げられた。「あっせん代理人」はその名の通りで、顧問先なり関与先で生じた個別労使紛争を事業主の代理人として行動する(労務管理業務の延長)というものを想定されていたが、「紛争解決代理人」では個別労使関係に関する民事紛争の代理人という性格になった。この流れの詳細は今、調べていないが、この性格の違いは大きなものがある。

特定社会保険労務士において民事紛争解決についてのノウハウが醸成されていないことに尽きる。労働相談もできるし、判例もよく知っている。ただし、それは「あっせん代理人」の状態で止まっているに過ぎない。「民事紛争解決代理人」において必要なノウハウは解決手段、方法に尽きる。

訴訟上の和解、は数回審尋を開き労使の主張を経て、全体が見えたときに勧告がなされる。4回期日を開いたとすれば、5回目に勧告である。
その5回目だけを取り出したのが、あっせん制度と考えればよい。したがって、少なくとも4回とは言わずとも数回の主張の往復をあっせん期日前に済ませ、当日は全体を見据えての和解勧告相当期日と考えることができる。
あっせん制度では「紛争状態が生じていること」(労使の主張の食い違いが生じていること)を前提として申請受付するが、それは制度運営上の最低限のことであるに過ぎない。あっせん申請の受付ができることと、解決できることとは違うのである。
結果、あっせん制度は参加されない例が多く、一方参加されれば解決率は高い。(しかし、解決額は司法とかけ離れていると一般的に言われている。このことについては産業競争力会議などで分析中である。)普通の労働者が紛争解決しようと行動する契機になったことは評価でき、使用者の労働関係観も若干変化した―権利の濫用の表面化が加速。ただ、もうそろそろ簡易、迅速の謳い文句は変えるべきだろう。なお、昭和の内向型の組織からの脱皮を目前としながらも、新たな労務管理論は構築されていないことが不安の種としてある。

いずれにせよ、あっせん期日では訴訟上の和解勧告日相当の期日と設定しておく必要がある。基本「一回」の期日であり、なぜ1回で終了できるのかがポイントである。
紛争事情、本人の主張と要求事項、相手方の主張とそれへの対応、争点整理その他証明物保全など、これらを本人でできるならばその補佐人として、できなければ代理人として進める。
ここまで進めばたいていはあっせんで和解すると考えるが、和解するしないは当事者の自由である。また、相手方が特定社会保険労務士または弁護士をつけた場合、当事者間での和解が行われることもある。その場合は、代理人業務ではなく労務管理業務となる。(紛争解決業務については、既存の社労士業務と弁護士法との関係により、やや複雑である。依頼者には直接関係ないことではあるが。)