平成24年(受)第2231号 地位確認等請求事件

判決破棄、差し戻し。

≪1 本件は,被上告人に雇用され副主任の職位にあった理学療法士である上告人が,労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ,育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことから,被上告人に対し,上記の副主任を免じた措置は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)9条3項に違反する無効なものであるなどと主張して,管理職(副主任)手当の支払及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。≫

長文で読みにくいし、またこの訴訟の解説をするつもりではないが、地位を求めていないのに確認訴訟とはと不思議に思う。こういうやり方がよいのか不明である。
さて、この判決はあまり評判がよくないが、事情を読み実務的にすると、軽易な作業を求めて配転した。それに伴う役職を解くにあたり、会社はその人事手続きを失念し、たぶん給与計算の際に気づいたものと思われるが、遡って役職を解くことについて本人の承認を取った。ここで本人と会社との信頼関係が揺れた。従前からの経緯も当然あると推定する。
会社は本人の従前の仕事を任せる者も配置させた。しかしそれは代替のつもりではなく、本人が軽易な業務から元に復帰を願ったところ、もう既に代りは見つけているので、貴方の復帰できる場所はないということから訴訟に発展した。私なりに思い切り丸めた事情なので、この訴訟からは少し離れていることは留意されたい。

訴訟は均等関係を根拠とするものでややこしくみえているが、私の丸め方であれば、会社の権利の濫用、不法行為が一目瞭然であろう。妊娠、育児にかかわらず、穴埋めのため配置した者がいるから辞めめてくれ、辞めるしかない、会社は余剰人員を抱えるところではない、とかよくある話である。まして、少子化問題があり、誰それが言われていたが、子供か会社かの二社選択を迫る雇用状況は改善されなければならない国家的急務である。ただ一方で、会社の財政問題も無視できないともいえ、法律論だけではなかなか難しく、身を引く者が実際のところ多い。有期雇用なら転職してしまう。争う労力等はハンパではなく、その間出費のみになるからだ。

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マタハラで頼れぬ、「伝書バトのような」労働局

≪最高裁判決で注目されたマタニティー・ハラスメント(マタハラ)だが、問題解決のために全国の労働局で行われている「紛争解決援助」や「是正指導」の実績は低迷している。≫読売新聞

セクハラやパワハラもそうだが、これを裁く法律は民法である。つまり、債務不履行や不法行為、権利の濫用、公序良俗違反を根拠に置く。加害者被害者という関係でみるなら刑法である。労働行政はそういうものを扱うのではなく、労働環境の改善への取り組み、起こったときの対応体制などである。当然の話であるが、労働局は裁判所ではない。事件を裁く権能は持たされていない。
ただし、個別労使紛争として助言をしたりあっせんの組織はある。助言というのは当事者の和解促進を助けるものでそれなりの実績効果がある。伝書バトではなく、裁判所扱いでない民事事案はあくまでも当事者で解決すべきものという性質なので、逆に代理人のように頼るものではないというものである。あっせんにしても、裁判のように主張や証拠の確認を数回の期日で行うものではなく、事情は当事者が最も知るものとして、あっせん委員が当事者の和解契機を誘う性質である。
この新聞記事では解雇無効を本人が求めていたとのことなので、もともと助言もあっせんも向かないということに過ぎない。白黒の決着は法的認定権能がある裁判所だけである。「解雇の撤回を求める。しかし、どうしても解雇を撤回しないならば給与1年分の補償を求める。」など交渉の余地があるか無いかがポイントで、本人が交渉の余地を求めないで解雇無効のみについて争うのならば裁判所しかない。
なお、あっせんは訴訟において数度の主張立証を行われた後の和解勧告の場に匹敵する。したがって、少なくとも、相手方との数度の書面などの交渉で双方の主張ポイントが確認できてから行うのがよい。だからあっせんは半日で十分なのである。なかなか労働局では代理人のように接することができないので念のため。