◆コーチには、問題がよく見える
 よく時代劇に出現する帳場座売り方式を改め、現在の百貨店のように、商品を展示して見せる総陳列法に変えたのは、三越の日比翁助であった。
 その翁助は、自分の知恵や体験に加え、どんどん他人の知恵や体験を取り込むという点で突出していた。
 よくブレーンというが、要するに経営のコーチだ。
 マラソンで知る人も多い瀬古選手は、学生時代は短距離だった。ところが彼をよく観察していたコーチが言った。
 「君は短距離より長距離に向いている」
 この一言で“世界の瀬古選手”が生まれたのである。外から見ていると、良くも悪くも特質が手に取るようにわかるものだ。
 ところで社長さん、たまには苦いことも言ってくれるコーチ、あなたにいますか。
◆経営のコーチ、お持ちですか
 ある住宅会社が自己破産して消滅した。しかし現在も経営者地獄は続いている。
 100年以上も住み続けた旧家も、個人保証の担保物件として明け渡し、社長一家はアパート暮らし。年老いた母親は、「ご先祖に申し訳ない。死にたい」と嘆いているそうである。
 この社長は、ある場所にゴルフ場を開発していた。しかし、「あまりにリスクが大きい。止めたほうがいい」とあるコンサルタントは言い続けたそうである。
 この社長は、執拗に計画見直しを迫る彼をうるさく思い、「顧問契約は延長しません」と言って、彼を突き放した。
 それから2年経たずして、今度はこの社長が銀行から突き放された。ということは、経営の生命維持装置を取り外されたのだ。
 社長の息子がそのコンサルタントに会いたいと言ってきたらしい。
 「ぼくは先生が言うように、ゴルフ場開発に反対でした。親父と喧嘩もしました……」
 彼に特別な先見力があったわけではない。
 社長が、自分の計画に自己陶酔していただけだが、お世辞だけしか言わない取り巻き連中の声を取り上げて、ついに社長は、再起不能の墓穴を掘ってしまった。
 もう少しコーチの意見に耳を傾けてくれたら……と思うのだが、経営が破綻してからでは、時すでに遅し。