月間社会保険労務士(2008・3月号)巻頭には、花見忠氏による上記タイトルの論稿が掲載されている。以下素描していきたい。なお、法そのものではなく、政策過程の問題であることへの注意を喚起しておきます。

1、労働契約法の成立・施行
・専門家からの評判がよくない。「何の問題を解決しようとしているのか、何のための立法なのか‥‥、非常にはっきりしない」(山口浩一郎)。
・二年余りにわたる審議会の機能低下。「研究会報告の棚上げ、労使各側それぞれの反対と審議中断、双方の反対意見付き答申という審議経過における四つの出来事から、専門家への不信、労使委員間の真摯な議論の欠如、労働側の大局を見失った抽象的法理論への固執などが指摘され、これまでの審議会による政策形成における専門家の役割の低下の結果として、審議会の機能不全が結論づけられている」(中村圭介)

2、労働契約法の特質
・≪例の就業法理変更法理は、就業規則による労働条件の変更に同意しない個別労働者の主体的意思よりも、「合理性」という条件つきで、企業、正規労働者と企業別組合の三者による運命共同体の利益を優先する「苦肉の策」である(花見忠)が、労働契約法は、これを実定法の条文にまで高めることで、個別紛争解決処理機関を拘束することを意図するものである。この意味で、この法律は本来の出発点であったはずの個別労働者、とくに組合に組織されていない非正規労働者の保護よりは、審議会の労使委員が代表する大企業とその企業別組合の利益を推進することとなり、専門家としての公益委員の役割はこれをオーソライズするにとどまったというのが、「専門家の役割低下」と評されるゆえんである。≫


現在、日本の今後の流れを形成するグループの多くが機能不全を起こしている。意見がまとまらない、決裂するという症例である。従来から日本における法制定過程はアヤシげな感じがするが、出来上がってみるとそれなりには仕上がってある。ただ、やはり実効性を強くもたない結果となる。しかしそれでも従来はよかったともいえる。国民の法的関心が年金同様低かったからである。特に戦中から戦後にかけては労使自治が法より優先したのである。しかし、今日実効性の強い法本来の役割が急速に求められており、そういう必要性に審議会は対応したことがないのである。