3.なぜこういう税務処理をするのでしょうか?
 前回述べたように、デリバティブ取引は時価評価が大原則で、例外処理のためには、色んな制約がかかります。
 なぜ、こうなっているのでしょうか?簡単な例で考えてみましょう。

(前提)
 現在のドル円の為替レート:100円
 当期の決算期は3月31日

(行ったデリバティブ取引)
 A「当期の3月31日に40円(注)を支払って」、B「翌期の4月1日に1ドルを60円で購入する契約」を締結します。
 (注)現在の為替レート100円と、4月1日の契約60円との差額です(=4月1日の契約が40円ほど有利なため、その調整金を3月31日に支払うという考え方です)。

(時価評価を行わなかった場合)
 A3月31日の決算時:40円を費用に計上します。
 B翌期の4月1日 :1ドルを60円で購入し(その1ドルを100円で売れば)40円の収益が計上されます。
  →こうすれば、当期の3月31日の決算において利益が減少するので、当期の納税額が減少してしまいます。

(時価評価を行った場合)
 A―1 3月31日の決算時:40円を費用に計上します。
 A−2 3月31日の決算時:デリバティブ取引を時価評価して、40円(現在の為替レートと60円の差額です)の収益を計上します。
  →こうすれば、当期の3月31日の決算において費用と収益が同額計上されるので、デリバティブ取引により期間損益が変動することはありません。

 なお、翌期は、上記時価評価を行った場合?と同様に40円の収益と、デリバティブ取引の時価評価の戻入の費用40円が計上されるため、これもデリバティブ取引により期間損益が変動することはありません。

 以上は、単純な例ですが、この例の為替を金利に変えたり、ドルを砂糖の価格に変えたり、場合によっては「明日の天気」に変えたりすれば、思いもよらないデリバティブ取引を行うことができます。
 そういう複雑な取引が出てきても、上記の例のとおり、時価評価という一律の「網」をかけることにより、「期間損益の歪み」をなくし、結果として「課税漏れ」等を防ぐことが可能になります。

4.デリバティブを行うかどうかの判断基準(考え方)
 それでは、御社がデリバティブ取引を金融機関等から薦められたとします。どう対応したら良いのでしょうか?
 結論は、Aリスク回避のためであり、B内容が判る=取引自体のリスクの管理ができる場合にのみ、積極的に取り組むべき、と考えます。
 A.「リスク回避のため」とはどういう意味でしょうか
 「リスクを感じている取引があり、そのリスクを少なくするために行う」という意味です。ドル建ての輸出入がある、長期の借入をしているが変動金利のために金利上昇が恐い、などです。
 例えば、ドルの輸入取引がある会社で、為替リスクヘッジのために前述のフラット為替予約を行う場合の取引金額の目安を簡単に言うと、「合計で1年間の輸入金額を超えてはいけない」ということかと思います。従って、毎月決済で3年の契約を行う場合は、1月当たりの金額は、年間輸入金額の1/36(12月×3年)となります。

 B.「内容が判る」とはどういう意味でしょうか
 社長又は財務担当役員が、「取引の内容やリスクを、資料を見ずに説明できる」ということです。
 例えば、「ノックアウト」「ノックイン」とか「オプションの売り」とかは聞いただけで?が何個か頭に浮かんできますし、すぐにリスクを説明することは難しいと思います。こういう取引を行うと、財務の専門家でも自社のリスクの管理をすることは不可能になると思います。

 以上は、税務処理等を中心に記載しました。「経理処理、会計処理」はどうなるのかという質問もあるかと思いますので結論のみ書きます。
 「中小企業の会計に関する指針」でも、デリバティブ取引は「時価評価」と明記されていますので、税務処理と同様の処理になります。

 最後になりますが、もともと判りにくい=難解なものを少しでも判りやすく書こうとしたため、厳密性に欠ける点があることはことはお詫びします。
 弊社では、当然、デリバティブ取引の税務処理等をより厳密に議論することが可能です。税理士業界ではあまり人口に膾炙されていない分野のようですので、是非色んな質問、意見をぶつけて頂きたいと思います。税務、経理処理だけではなく、商品の仕組みの解説等各方面で喜んでアドバイスをさせて頂きます。
文責:経理サポート部



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