経理をしていて、まずつまずくのが、「貸方(かしかた)」、「借方(かりかた)」という言い方ではないでしょうか?あれ右がどっちだっけ?左がどっち?という経験は、初学者ならずとも皆持っているのではないでしょうか。

「貸方」、「借方」の意味、由来、語源、理由は、諸説がありますが、以下の解釈が最も古いと思われます。

「フィレンツェのある銀行家によってなされた1211年の日付をもつ勘定記録」というものがあります。これには、銀行がA氏に対して「貸付」を行った記録が、(A氏は返済義務を負うため)「われわれに対して与えなければならない(no die dare = is due to give us)」と表現され、複式簿記の左側を呼称する「借方(dare)」に発展したとされています。
但し、この勘定記録には「貸方」の原型を見出すことはできません。

次に、フィレンツェ地方で商人記録として最も古いとされる「リニエリ・フィニーの元帳」は1296年から1305年にかけてシャンパーニュの大市でおこなったフィニー商会の長男リニエリによって記録された金銭貸借記録および商品売買取引です。
リニエリが行った「貸付」の結果、債権が生じた場合は「de dare(与えなければならない)」などの言葉が冒頭に記載されて記録が始まります。「与えなければならない=返済しなければならない」すなわち「借りている人=借方」となります。
また、受け取るべき利息が生じた場合は「de avere(持つべき)」という言葉から記録がはじめられており、つまり「受け取らなければならない=貸している人=貸方」となります。

うーん、判りにくいのですが、要は、「証拠」として、自分が「貸している」場合は、「借りている人=借方」と「見出し」をつけて「記録」したということのようです。

ここで問題なのは、現在においても引き続き、「自分が貸している(貸付金)」のに貸借対照表の左側で「借方」と表現していることです。反対に「自分が借りている(借入金)」場合は右側で「貸方」となります。右か左かを識別するのに、「自分から」見て「反対側の言い方」をしているため、識別の意味がなく、逆に混乱を招いてしまっています。また、貸方、借方ともに「か」から始まることが更に識別しにくくしています。
と言う訳で、貸方、借方の由来や理由は別にして、こういう言い方はやめるべきだと思います。因みに、簿記の学校では「貸方、借方は意味がありません。単に右、左の意味だけです」と説明しているところもあるようです。だったら、いっそ「右側」、「左側」と言った方が判り易いと思います。

「右側」「左側」という言い方を使わないなら、私は、右側を「元方(もとかた)」、左側を「先方(さきかた)」と言うことを提唱します。
理由は、貸借対照表と、左右に並べた損益計算書では、「お金は、右から左に流れる」からです(詳しくは2012年4月4日付の当ブログにある「今さら人に聞けない決算書の読み方」の説明を聞いてみてください)。その上で、両者に「出(で)」を付けて、「お金の出元(でもと)=右側」「お金の出先(でさき)=左側」と考えるとだんだんお金の動きのイメージが湧いて来ませんか?
なお、「元方(もとかた)」、「先方(さきかた)」の他にも、「右側=入方(いりかた)」「左側=出方(でかた)」という言い方も考えましたが、現金預金の記帳の際にイメージが逆になるので、「元方」、「先方」の方がしっくり来るように思います。

最後に本内容は、筆者の個人的な見解であり、税理士法人プロネットの見解では有りませんことを申し沿えます。

文責:事業承継部

(参考文献)
「会社記録の基礎 ㈱中央経済社 工藤栄一郎著」
「中世イタリア複式簿記生成史 ㈱白桃書房 橋本寿哉著」
「歴史から学ぶ会計 同文舘出版㈱ 渡邉泉著」
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